サッカーの話をしよう

No.388 選手はレフェリーとしっかり向かい合え

 Jリーグを見ていて、ときどき「こんな状況は日本だけではないか」と思うことがある。互いに背をそむける選手とレフェリーの関係だ。
 反則の笛が吹かれると、大半の選手たちは「なぜファウルなのか」「ボールに行ったじゃないか」というようなジェスチャーを見せ、レフェリーに向かって大声で叫ぶ。
 これはJリーグが始まって以来一向に減らない重大な問題である。だがレフェリーたちのなかにも、態度に疑問がある人がいる。文句を言う選手から目をそらし、「問答無用」とばかりに相手を手で振り払うようなジェスチャーを見せるのだ。
 一方、選手たちがレフェリーを無視するのは、どう見ても警告(イエローカード)になるひどい反則をしたときだ。カードを出すためにレフェリーが走り寄っていく。しかし選手はそれに背を向けて自陣の方向にとっとと走り去ってしまう。
 レフェリーは再び笛を吹き、選手を呼び寄せようとする。しかし選手は上半身だけ振り向いて片手を振る。カードが出される前に再び目をそむけてしまう選手も多い。結局、レフェリーは20メートルも離れたところからカードを示すことになる。
 ヨーロッパのリーグでは、両者の態度はまったく違うように思う。
 クレームをつけられたレフェリーたちは、しっかりと選手に向き合い、「私が見ていたんだ」と自信のある態度を示す。そして明らかにイエローカードを出される反則をしてしまった選手は、状況を理解し、レフェリーの前に立って素直にカードを受ける。
 レフェリーはカードを示す前に、あるいは示しながら選手に声をかける。「危ないじゃないか」「もっと冷静にプレーしよう」そんな言葉をかけているように見える。そして選手たちもそうした言葉に素直にうなずく(ときどきは「わざとじゃないんだ」と言い訳をする)。そしてカードを示されると、すぐに自分のポジションに戻っていく。
 選手たちはレフェリーの役割と権限を認めている。そしてレフェリーも選手たちが勝利のために全力を尽くして戦っていることを尊重し、ルールにのっとって安全にそして公平に、両チームが力を発揮できるよう、「仲立ち人」の役割を果たす。そこには自立した人間同士の、きちんとした関係がある。
 かつて「ハッスルボーイ」として有名だった日本代表のある選手は、勢い余ってひどい反則をしてしまうと、その場で直立し、レフェリーに向かって深ぶかと頭を下げた。本人はイエローカードが出ないようにと必死だっただけかもしれないが、そこには、レフェリーと選手の人間と人間としての関係があった。
 しかし最近のJリーグの状況はどうだろう。しっかり相手と向き合わず、まるで互いに「敵」と見ているのではないか。
 こうした行動を見るたびに、私は、口うるさい親や教師と、それに対する反抗期の子どものような印象を受けてしまう。それがそのままJリーグのピッチに持ち込まれているように思うのだ。
 少年やユース年代のサッカーを見ていると、選手たちはレフェリーを教師のように見ていると感じることがある。レフェリーもまた、選手たちを「生徒」のように扱う。その感覚が、Jリーグの試合でも続いているのではないか。
 しかしレフェリーは親でも教師でもない。選手とレフェリーは、いったん同じピッチの上に立てば、協力し合って、いいゲームを組み立てていく「仲間」であるはずだ。
 レフェリーとは何か、どういう存在なのかを、子どものときから教え、しっかりと向き合う習慣をつけなければならない。そして同時に、レフェリーにも、年齢に関係なく選手を一個の人間として尊重し、しっかりと向き合うことを望みたい。 

(2001年11月5日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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