サッカーの話をしよう
No.390 Jに新しい風が吹き始めた
J2(Jリーグ2部)の長い1シーズンが終わった。
12チームが「ホームアンドアウェー」を2回繰り返し、それぞれ4回対戦する全44節のロングランリーグ。その第43節に京都サンガの優勝とJ1復帰、そして最終節にベガルタ仙台のJ1初昇格が決まった。
J1から降格後わずか1年で復帰を果たした京都は、J2では圧倒的な予算規模を背景にゲルト・エンゲルス監督が粘り強いチームをつくり上げた。2年目のFW黒部光昭をエースに押し立て、その黒部の30得点が優勝の原動力となった。
一方の仙台は、前身の東北電力から「ブランメル仙台」になって7年目のJ1昇格。3年前から指揮をとっている清水秀彦監督は、今季獲得したFWマルコスを軸に攻撃力のあるチームをつくった。両サイドの攻撃的MFに財前宣之、日本代表経験のある岩本輝雄らを置いて攻撃のポイントをつくった布陣が成功した。
しかし今季のJ2を活気づかせた最大の功労者は、この2チームに続いて3位、4位を占め、最後までJ1への昇格争いに加わったモンテディオ山形とアルビレックス新潟だっただろう。
Jリーグで唯一「社団法人」の法人形式をとる山形(他の全クラブは株式会社)。予算の関係から外国人選手を一切使わず、シーズンの途中にはエースで得点源だったFW堀井岳也をJ1のコンサドーレ札幌に放出しながら、最後まで昇格を争う健闘を見せた。
新潟は元日本代表のFW黒崎久志が牽引車役を果たし、このベテランに引っ張られて鈴木慎吾らの若手が伸びたことが上位進出の力となった。
ワールドカップ開催に日本が立候補を決めたころ、「スタジアムをつくって大会をするだけでは何も残らない。地元にJリーグのクラブをつくろう」と、県内のサッカー関係者が奔走したところから始まったクラブ。北信越リーグの「新潟イレブン」を母体に94年にクラブを立ち上げ、以後着実に地力をつけてきた。
ことし6月に新潟スタジアムが完成。その後のホームゲームの大半を新スタジアムで開催し、第41節の京都戦では4万2011人というJ2新記録をつくった。シーズン終盤の5試合では平均3万を超す観客が詰めかけた。新潟の新しい文化として定着してきたように思える。
山形、新潟の両クラブに共通するのは、「監督1年生」だ。山形の柱谷幸一監督、新潟の反町康治監督は、ともに今季が監督1年目。シーズン前には経験のなさが心配されたが、ともにすばらしい結果を残した。
ふたりとも、自分のやりたいサッカーを明確に示し、そのための練習をし、選手を育ててきた。シーズン後半にぐんぐん順位を上げていったのは、両監督の妥協のないチームづくりが実った結果だった。
40歳(柱谷)と37歳(反町)。ふたりとも、過去1、2年で「公認S級コーチ」の資格を優秀な成績で取得したばかり。いわば監督界の「超大型新人」だ。その指導ぶりと成果は、近年の日本協会の指導者養成システムの優秀さを証明するものでもある。
11月6日、第42節に両チームが山形で対戦した。見ごたえのある立派な試合だった。昇格の可能性を残していた山形は立ち上がり硬さが見られたが、ともにチームとしての戦い方が明確で、一体となったプレーを見せていた。
選手や監督をとっかえひっかえ使うのではなく、しっかりとした指導で選手を育て、チームをつくろうというクラブと指導者が出てきたのは、今季のJ2の大きな収穫だった。
J2に新しい風が吹き始めている。その風は、今後の日本サッカーの成長の原動力になっていくはずだ。
(2001年11月21日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。