サッカーの話をしよう

No.426 ワールドカップに高原がいたら...

 こういうゴールが好きだ。こういう得点をするストライカーを待望していた。Jリーグ第1ステージで優勝を決めたジュビロ磐田のFW高原直泰のゴールである。
 「この高原がワールドカップでいてくれたらなあ...」
 誰もがそう思っただろう。
 ワールドカップ後に再開されたJリーグでの高原は、鬼気迫る雰囲気があった。7月20日の第9節、FC東京とのアウェー戦で2得点して以来、最終節の柏レイソル戦まで7試合連続の11得点。先行する横浜F・マリノスを追い落とした最大の要因は、間違いなく高原のゴールだった。
 99年のワールドユース(ナイジェリア)、2000年のシドニー・オリンピック、アジアカップ(レバノン)を経て、高原は日本代表のエースに成長した。2001年にはアルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズに移籍して新たな一歩を記した。

 しかしにようやく慣れようとしていた今年はじめ、突然、アルゼンチン経済が破たんした。クラブ経営の見通しが立たず、高原は帰国を余儀なくされた。いま高原が背負っている32という大きな背番号は、ジュビロのチーム編成が終わった後に高原が復帰したことを示している。
 シーズン前半はコンディションが整わなかった。次第に調子を上げ、日本代表のポーランド戦では見事なゴールを決めた。しかしその帰国の飛行機で体調を崩し、1週間後に入院、結局、ワールドカップには間に合わなかった。
 ワールドカップ後のJリーグで、高原は急速にコンディションを上げていった。動き出しの早さ、動きの質、スピード、ボールを受けたときの安定度。そして何よりも、シュートの質が変わった。
 右足、左足、ヘディングと3拍子そろったシュートの能力を誇る高原。以前は力いっぱいけり込むシュートが多かった。決まるときには豪快だが、けっしてコンスタントとはいえなかった。

 しかし今季第1ステージ後半戦では、まったく違ったタイプのシュートを見せた。ボールをコントロールしてシュート態勢にはいりながら瞬時にGKの動きや体重のかかり方を見極め、その逆をつくコースにボールを送り込むのだ。きちっとしたキックができないときにも、足先などを使い、とにかくそのタイミングでそのコースに流し込む。
 おそらくそれは、アルゼンチンの厳しいサッカーで自然に身につけたものだろう。この変化こそ、コンスタントな得点力を生む力となった。
 そのうえに、優勝を決めた柏戦では、これまでになかった新しい得点の形も見せた。ジュビロのMF川口信男がペナルティーエリアの右から入れたクロスが相手DFの体に当たり、フワフワっと上がってGKを越えた。そのとき、ジュビロの青いユニホームが猛烈な勢いでゴール前に飛び込み、ちょうどゴールライン上に浮いていたボールをヘディングで叩き込んだ。

 GKの頭上を越えたボールは、そのまま放っておいてもゴールに吸い込まれるのは確実だった。しかしまだゴールにはいっていない以上、そこに飛び込んでとどめを刺すのが、本物の「ストライカー魂」というものだ。これこそ、私の大好きなゴールだ。
 私は一瞬、中山雅史ではないかと思った。中山こそ、「ストライカー魂」の化身ともいうべき選手だからだ。
 それが高原だったのは、大きな喜びだった。23歳の高原が、ストライカーとしてひとつの完成段階に達したことを確認したからだ。
 持ち前の才能と身体能力。アルゼンチンでつかんだシュート技術。そして中山から学び取った「ストライカー魂」。
 「ワールドカップに高原がいたら...」と誰もが惜しむのは、当然のことだ。
 
(2002年8月21日)
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