サッカーの話をしよう
No.428 マウンドのあるサッカーグラウンド
もう30年以上も前、神奈川県の高校生だった私にとって、試合のグラウンドは大半が学校のグラウンドだった。サッカー専用のグラウンドなど県下にいくつかしかなかったから、公式戦でも大半は、広い校庭をもつ学校の施設を使わざるをえなかった。
学校のグラウンドは、普段は部活動に使われている。多くのグラウンドでは、サッカーのピッチ内に野球のピッチャーズ・マウンドがあった。初めて行く試合会場では、まずマウンドの位置を確認しなければならなかった。
そんなことを思い出したのは、最近練習で使ったグラウンドのペナルティーエリア内にマウンドがあったからだ。ある区の区営施設だったが、ほぼ真四角の施設の4隅に野球の土の内野がとられ、外野の部分は芝生になっている。
サッカーで使う場合には、野球の2面分をひとつのピッチにする。ペナルティーエリアの大半は内野の土だが、左3分の1ほどは芝生だ。
サッカーにとって理想の形とはいえない。しかしそれでも、現在の東京では、サッカーのために使えるグラウンドがあるというだけで非常に貴重なことだ。
ワールドカップでサッカー人気が高まっている。サッカーがこれほど日常的な話題になるのは、93年のJリーグ・スタート時以来のことではないか。見るだけでなく、自分自身でサッカーを楽しもうという人の数も、間違いなく増えている。ところが、それがなかなか長続きしない。その最大の原因が、「グラウンド不足」にあるのは確かだ。
11人を集めてチームをつくるのは、簡単とはいえないが、いまのようにサッカーに対する関心が高い時期ならそう難しくもない。ユニホームをそろえるのは、ずっとやさしい。しかし試合をしようとすると、大きな壁にぶつかる。手軽に借りられる公共のグラウンドがほとんどないからだ。とくに大都市圏では、サッカー・グラウンドの数は極端に不足している。
民間でやっている時間貸しのフットサル(5人制サッカー)のコートは、どこも盛況だ。テニスコートをやめてフットサル・コートに切り替えるところも多い。
しかし広大な土地を必要とする正規のサッカー・グラウンドの時間貸し事業など、民間では成り立たない。サッカー・グラウンドといえば、公共の施設に頼らざるをえないのだが、その公共の施設づくりが、サッカー愛好者の伸びにまったく追いついていないのが現状なのだ。
一方、早くから広まっていただけに、野球のための公共の施設は多い。東京のある区には45面の区営野球場があるが、サッカー場はわずか3面だ。このグラウンド数が野球愛好者の要望を完全に満たすものではないかもしれないが、それでも、サッカーと比べると状況は大きく違う。
私の提案は、そうした野球グラウンドのいくつかにサッカー・ゴールを配備し、サッカーにも使えるようにすることだ。小さなピッチしかつくれないところなら、小ぶりな少年用のゴールを配備して小学生以下用ということにしてもいい。野球に使用しないとき、あるいは、時間配分を定めて野球グラウンドをサッカーでも使えるようにできれば、施設がより有効に活用されることにもなる。
サッカーのゴールは1セットで数十万円する。ことしから配分が始まった「サッカーくじ」からのスポーツ振興資金は、このようなものにこそ使われるべきだと思う。
ペナルティーエリアの半分が芝で半分が土でも、ピッチのなかにマウンドがあってもいい。広いグランドを使うことができるようになれば、「思い切りサッカーをしたい」と思いながらままならない多くの人の救いになるはずだ。
(2002年9月4日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。