サッカーの話をしよう

No.429 CKをはやくけろう

 試合を見るときには取材ノートをつける。両チームのメンバーや布陣、そして得点場面や主要なチャンスなどを記録するノートだ。試合後に記事を書くときになくてはならないものだ。ワールドカップでも、Jリーグと同じようにノートをつける。
 そうしたなかで、世界と日本のサッカーの思いがけない違いを見つけることがある。ずっと気になっていたのは、コーナーキック(CK)がけられるまでの時間の違いだ。
 守備側がゴールラインからボールを出すと攻撃側に与えられるCK。大きなチャンスがかろうじて防がれた結果であることも多い。当然、そのプレーはノートに記録すべきことの対象になる。誰から誰にパスが出て、どんなチャンスになったか、守備側はどう対処したかなどをノートに記す。そしてCKを見るために顔を上げる。

 「思いがけない違い」を感じるのは、このときだ。
 Jリーグでは、キッカーがボールをセットし、片手を上げて中央の選手に合図している場面となっていることが多い。しかしワールドカップをはじめとした世界のサッカーでは、ノートに手間取っていると、CKが行われてしまうのだ。スタンドの雰囲気(それでける瞬間がわかる)を気にしながらすばやくメモを終わらせるか、あるいは、後回しにしなければならない。
 ワールドカップとJリーグの試合のビデオを見比べながら、ボールが出てからCKがけられるまで実際にどれくらいの時間がかかっているか、計ってみた。
 ワールドカップのある試合では、90分間に両チーム合わせて20本のCKがけられ、1本のキックに要した時間は平均19・7秒だった。ところが、Jリーグの試合では、9本のCKに平均34・1秒もかかっていた。

 そのJリーグの試合では、前半のなかばに先制点がはいり、1−0のまま90分が終わった。1点リードの状況で長い時間を戦ったチームのCKは4本、平均所用時間は38・3秒だった。
 CKが与えられると、あらかじめ決められたキッカーがゆっくりとコーナーに向かってゆく。そして、長身のDFたちが上がってきて相手ゴール前に到達するまで20秒。それからキッカーがボールを置き直し、合図をして、ようやくキックする。
 一方、負けているチームは、キッカーが少し急いで走っていくが、同じようなものだ。前半の1本は35秒、後半、急いだときも平均して25秒以上かかっていた。
 ワールドカップでサンプルにしたのは、コスタリカ対ブラジルで、最終スコアは2−5、前半10分に先制点を挙げたブラジルがコンスタントに得点を挙げて快勝した試合だ。コスタリカは14本ものCKを1本平均20秒そこそこでけった。そして大量リードのブラジルも、平均18・7秒しかかけなかった。

 20秒でけることのできるCKに30秒をかけると、1試合あたり10本のCKとしても合計すると2分間近い時間の浪費になる。それだけではない。緊張感なくだらだらとコーナーに歩いていく姿は、「サッカーらしさ」、「サッカーの魅力」から最も遠くにあるものだ。
 息がきれるほどのダッシュは必要ない。しかしCKが与えられたら、きびきびと走ってポジションにつき、時間をロスせずにCKを行うようにする習慣をつけなければならない。
 ワールドカップでサッカーに興味をもった人びとがJリーグのスタジアムに行く。そして「何か違う」と感じる。試合のステータスやスターの名前ではない。CKでの10秒間のロスのような細かなことが、目の肥えたファンに大きな「違和感」を与えているのだ。
 
(2002年9月11日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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