サッカーの話をしよう

No.439 左利きがジュビロの秘密

 史上初の両ステージ優勝で、ジュビロ磐田が今季Jリーグの「完全制覇」を達成した。
 年間の総勝ち点は、昨年と同じ71。全30試合で可能な総勝ち点90に対し、79パーセントという驚異的な達成率だ。年間勝ち点2位チームは、昨年が54、ことしも55という数字だったから、ジュビロがいかに他を圧倒した強さであるか、理解できるだろう。
 こうした継続的に強いチームは、たまたま生まれるものではない。計画的に選手を獲得し、それを育て、そしてチームとして相互理解を深めることによって、初めてつくり上げることができる。
 鈴木政一監督は、かつてこのクラブでスカウトを担当しており、現在のチームの多くは、そうした時代に獲得してきた選手たちだという。そこに、ジュビロの強さの大きな秘密がある。

 鈴木監督が第一に欲したのは、頭がよく、技術のしっかりとした選手だっただろう。守りを固める相手を攻め崩せなければチャンピオンになることはできない。そのためには、しっかりとパスをつなげる選手が必要だからだ。
 今季、ジュビロは数々のビューティフル・ゴールを見せたが、その多くは、中盤でボールを奪ったところから流れるようにパスをつないで決めたものだった。パスの質の高さだけでなく、ボールをもたない選手の動きの質の高さにおいて、ジュビロに匹敵するチームはなかった。
 しかし、鈴木監督の「人選び」には、もうひとつの狙いがあったように思える。それは、「左利き」を重点的に採用したことだ。
 今季第2ステージの大半で先発した選手を見ると、10人のフィールドプレーヤーのうち3人が左利きだった。DF山西尊裕、MF服部年宏、MF名波浩である。左利きが不足している日本のサッカーでは異例のことだ。

 3−5−2システムのなかで、鈴木監督はMFの左アウトサイドには右利きの藤田俊哉を使うことが多かった。しかし藤田は左サイドをプレーの「起点」としただけで、自由自在に動いた。そして彼が動いた後のスペースを、攻撃的MFの名波、ボランチの服部、そしてストッパーの山西が、非常に有効に使った。
 サッカーの選手は左右どちらの足でも同じようにボールを扱えるように訓練されている。右利きだけれど、左足のほうが強いシュートを打てる選手もいる。しかし試合中に使うのは、8割以上が利き足なのである。チームが右利きばかりだと、攻守両面においてバランスが悪くなるのはそのためだ。
 さらに現代のサッカーでは、鋭く曲がる速いクロスボールが非常に重要な武器となっている。こうしたボールは、利き足でないとけることができないから、左利きがいるかいないかは、チームの攻撃力、得点力に大きな影響を与える。ジュビロは常時3人もの左利きをピッチに出し、彼らが次々と左サイドを駆け上がって好クロスを入れた。

 さらに、控えにも、MF金沢浄、MFアレクサンダー・ジヴコヴィッチ(ユーゴスラビア)という左利きを置いていた。第2ステージで優勝を決めたVゴールは、藤田に代わって左サイドにはいった金沢の左足タックルから生まれたものだった。
 他のJリーグ・クラブも、左サイドには左足のスペシャリストと呼ばれる選手を置いているが、多くは1人だけ。他の選手が左サイドに走り込むと、右足にもち替えてクロスを入れるケースが多い。
 左利きが不足している日本サッカーのなかで、いちはやく左利きの戦術的な重要性に注目し、明確な狙いをもった選手獲得と時間をかけての育成で今日のチームをつくったジュビロ磐田と鈴木監督に、改めて敬意を表したい。
 
(2002年12月4日)
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