サッカーの話をしよう

No.445 リーグ戦の意味

 ことし2003年は、日本サッカーの重大な転機の年として記憶されることになるかもしれない。中学生から高校生年代の「ユース」レベルで、本格的なリーグ戦の導入が始まるからだ。
 日本サッカー協会は、ことしから高校生年代にあたる「U−18(18歳以下)」で全国を9地域に分けたリーグ戦を組織する。主催は各地域のサッカー協会。高校チーム、クラブチームを問わず、各地域の強豪チームが参加し、リーグ戦方式で優勝を争う。
 さらに、全国35の都道府県単位でも、高校生年代のリーグ戦が始まる。「地域リーグ」が強豪同士の切磋琢磨で強化を図ろうという目的であるのに対し、こちらは、その下のレベルのチームの強化とともに、「できるだけ多くのプレーヤーが数多くの試合を経験できるようにしたい」という、まったく別の目的もある。

 これまで、高校年代のサッカーの中心は、勝ち抜き方式の大会だった。この方式だと、勝ち進めば試合数は増えるが、1試合で大会が終わりというチームもたくさんある。「年間の公式戦が2試合(!)」というチームも珍しくなかった。リーグ戦にすれば、どのチームにも同じ数の試合が保証される。ひとりのプレーヤーが経験できる試合数は飛躍的に増加するはずだ。
 さらに、都道府県単位のリーグでは、登録プレーヤー数が多いチームは複数のチームを出場させてもいいなど、フレキシブルな運営が行われる。これまで試合出場機会の少なかった1、2年生だけでチームを組んで出場することもできる。逆に、プレーヤー数が足りない学校チームが、同じような状況の他校チームと合同でリーグに参加することも可能だという。

 ユース世代の「リーグ戦化」は、すでに数年前から、いくつかの地域や県で実施されている。それを制度化して一挙に日本全国に広げたのが、ことしの日本サッカー協会の「改革」だ。そして高校生年代に続いて、中学生年代でも実施されていく予定だ。この改革で、日本のサッカーのベースは、「勝ち抜き方式」から「リーグ戦」へと大きく転換を遂げることになる。
 年間を通じてコンスタントに日程をこなす「リーグ戦」は、プレーヤーを育て、チームを成長させる最良の方法といってよい。
 「スポーツ選手は、ゲームとトレーニングで成長していく。このふたつのバランスが必要なんです」と、リーグ戦の効用を的確に語ってくれたのは、元日本サッカー協会会長の長沼健さんだった。
 「練習ばかりやっていて試合のない人、試合ばかりやっていて練習のない人、どちらも欠陥です。バランスが取れて、初めていい選手ができる」

 試合のなかで、チームや個人の課題が明確になる。それを、次の試合に向けた練習のなかで克服していく。あるいはまた、次の相手を想定した練習で新しい戦い方を身につけ、それを実戦で試しながら積み重ねていく。勝っても負けても「次がある」リーグ戦だから可能なことだ。
 ひとつひとつの結果に一喜一憂するのではなく、また、短期間に燃え上がり、燃え尽きるのではなく、努力と集中を持続させるメンタリティーも必要となる。ヨーロッパや南米の選手たちの「シン」の強さは、長年の「リーグ戦生活」で培われたものだ。
 「ホームアンドアウェー」で実施されるリーグ戦では、各チームがホームゲームの運営を担当しなければならない。協会が準備してくれた会場に行って試合をすればよかったこれまでとは、180度違う。リーグ戦は、強化に役立ち、多くのプレーヤーに数多くの試合経験を提供するだけではない。運営や審判など、サッカーを取り巻く仕事に携わる人の育成にもつながっている。
 
(2003年1月22日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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