サッカーの話をしよう
No.487 学芸大とFC東京の取り組み
新しい試みがスタートする。東京西部の小金井市にある東京学芸大学が、JリーグのFC東京、そして地元小金井市との連携で「地域総合クラブ」を創設することになった。
教員養成の国立大学として知られる東京学芸大は、地域に開かれた大学を目指して、公開講座や図書館の公開など、各種の取り組みをしてきた。しかし来年4月から新しい「国立大学法人」へと移行するのに伴い、スポーツと文化の両面で地域社会の活動を支援する「学芸大クラブ」を創設することになったという。
JFL時代から江東区の深川にある施設を練習グラウンドとして使ってきたFC東京は、昨年から小金井市に隣接する小平市に移転した。味の素スタジアムの完成でホームスタジアムが東京西部の調布市となったためだ。
そして東京西部に根を張ろうと、少年サッカースクールなどさまざまな地域活動を展開してきた。FC東京の試合に行くと、おそろいの青いユニホーム姿の家族連れをたくさん見る。丹念に地域活動を展開してきた成果だろう。
しかしその一方で、中学生年代の「ジュニアユース」は、深川に置かれたままだった。小平の練習グラウンドには天然芝のグラウンドが2面しかなく、ここでジュニアユースまで活動をすることはできなかったからだ。
中学生年代だから、あまり遠くから通うことはできない。地域活動を深めれば深めるほど、「東京西部にもジュニアユースのチームをつくってほしい」という要望が強まった。
学芸大との連携は、この面だけを考えても大きなメリットのあるものに違いない。FC東京は人工芝のサッカーグラウンド2面を学芸大に寄付し、そこを舞台にさっそく新しいジュニアユース・チームを立ち上げる予定だという。
人工芝のグラウンドは、サッカーの練習だけでなく、いろいろな活動やイベントに使うことができる。毎日、朝から晩まで酷使しても問題はないので、新しくできる「学芸大クラブ」にとって非常に有用な財産になるだろう。
「将来的にはクラブハウスをつくりたい」と、東京学芸大の岡本靖正学長は語る。サッカーに限らず、広く小中学生のスポーツ育成活動から手をつけていきたいというが、予算づけができているわけではなく、具体的にはすべてこれから詰めていくという。
同大学サッカー部監督の瀧井敏郎さんは、「FC東京というサッカーの面でも運営の面でもプロ集団との交流は、学生たちに大きな刺激になり、幅広い人材育成に役立つ。大学にとっても非常にメリットのあること」と力説する。
注目したいのは、「学芸大スポーツクラブ」ではなく、「学芸大クラブ」という名称だ。スポーツだけでなく、音楽など、広く文化活動を展開していきたいという。
Jリーグの「百年構想」には、「スポーツで、もっと、幸せな国へ」という標語のとおり、もっぱらスポーツ環境の整備により、新しい文化を築こうという意図がある。現在、日本の各地で計画が進んでいる「地域総合スポーツクラブ」も、同じ考え方だろう。
しかし「学芸大クラブ」は一歩進んでいる。スポーツとその他の文化活動を区別する必要はない。目的は、地域の人びとの生活を豊かにすることだからだ。
地元小金井市も巻き込んだ新クラブづくり。国立大学とJリーグ・クラブの連携という新しい取り組みは、今後、いろいろな形で各地に波及していくのではと期待される。
具体像は明確ではないものの、「学芸大クラブ」は、大きな可能性を秘めた「プラットフォーム」のように思える。学芸大、FC東京だけでなく、市民が積極的に関与して、その上に豊かな「クラブライフ」を築いてほしいと思う。
(2003年11月12日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。