サッカーの話をしよう
No.491 U-20代表GK川島の能力
U−20(20歳以下)日本代表が、UAEで行われているFIFAワールドユース選手権で見事な戦いを見せている。1次リーグで優勝候補のひとつと言われたエジプトを1−0で下し、決勝トーナメント1回戦では韓国との死闘を延長の末2−1で制してベスト8進出を果たした。その立役者のひとりがGKの川島永嗣(大宮)だ。
反射神経が非常に鋭い。エジプト戦では、至近距離からの強シュートをことごとくはね返した。しかしそれだけではなかった。韓国戦の後半終了間際に見せたFKに対する守備は、この選手が非常に良い指導を受け、20歳という若さで優れた技術を身につけていることを示していた。
延長戦突入直前の後半44分、日本は韓国にペナルティーエリアの左外でFKを与えてしまった。ゴールまで27メートル。日本は4人の選手が「壁」をつくり、GK川島はゴール内の中央に立った。
韓国FW鄭ジョングクは、その壁の上を越える強シュートを放った。壁を越えた後に強烈なドライブがかかり、ボールはゴールの左下隅に飛んでいく。完璧と言っていいFKだった。
川島は、ボールが壁を越えてコースが明確にわかるまで動かず、両足に均等に体重を乗せてリラックスした姿勢をとっていた。そしてボールが自分から見て右に来るのを見てとると、まず右足を内側(左側)に引いて重心を右に移し、次に左足を体の前にクロスさせるように右に大きくステップし、さらに右足を右に踏み出し、そこで初めて体を倒して、直前でワンバウンドしてゴール隅にはいろうとしているボールをはじき出した。
しっかりとした技術のないGKは、こうした状況では、シュートを止めようと、立ったポジションからジャンプしてしまう。よく訓練されたJリーグクラスのGKでも、このときのシュートのスピードであれば、右足を1歩外側に運んで、その右足の力で右へ跳ぶのが精いっぱいだっただろう。そして、そのどちらでも、このときのシュートは防げなかっただろう。
しかし川島は、この短時間に2歩のしっかりとしたステップを踏んだ。決定的なピンチから日本を救ったのは、この2歩だった。
「派手にセービングするのは二流のGK」と言われる。シュートに対して体をそりながら横に跳び、ボールをはじき出すプレーは、非常に派手でかっこいい。GKという地味なポジションの選手がいちばん目立つときでもある。
しかし一流のGKは、多くのボールを正面で処理する。キャッチする瞬間には非常に簡単なシュートが飛んできたように見える。まずシュートのコースを読み、そしてすばやくステップを踏んでそのコースで待ち構えているからだ。だから一流のGKの守りには、派手なセービングは少ない。
イングランドのGKバンクスがブラジルのペレのヘディングシュートを防いだ70年ワールドカップの伝説のプレーのときにも、バンクスはクロスに対処して立っていた右ポスト前からすばやく4歩のステップを踏んで左に移動し、リラックスした構えから左下隅に飛んできたシュートをきれいにはじき出した。
川島は身長185センチ。国際クラスのGKでは大きいほうではないが、まず申し分ない。しかし身長や反射神経の鋭さだけでなく、レベルの高い技術をしっかりと体得していることが、このGKの最大の魅力だ。
韓国との延長戦を見ながら、私は「もしPK戦になったら、日本が勝つだろう」と感じていた。それはもちろん、GK川島がいるからだ。
もしかすると、日本人で初めて、ヨーロッパの一流クラブで活躍できるGKが誕生するかもしれない。
(2003年12月10日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。