サッカーの話をしよう

No.492 モットラム氏はFIFAに抗議を

 ボカ・ジュニアーズの見事な健闘で見応えがあったトヨタカップ。しかし同時に、レフェリングに違和感が残る試合でもあった。
 トヨタカップは、ずっと世界の超一流レフェリーが主審を務めてきた。ヨーロッパと南米の対戦なので、公平を期して、1年おきにヨーロッパと南米から主審が出る。
 今回、ACミランとボカ・ジュニアーズの対戦を担当した主審はロシアのワレンチン・イワノフ氏。ワールドカップ出場こそないが、ことし6月にフランスで開催されたFIFAコンフェデレーションズカップで決勝戦の主審を任された実力派だ。ちなみに、副審のゲンナジー・クラシュク氏(ロシア)、ユーリー・ドゥパナウ氏(ベラルーシ)も、同大会決勝戦でイワノフ氏の副審を務めた。いわば、「2003年の世界最強トリオ」といった審判チームだった。
 私の「違和感」は、おそらく、Jリーグを見ているファンなら、誰でも多少は感じたのではないか。「遅延行為(時間かせぎ)」の横行だ。
 主審が笛を吹いて反則があったことを示す。すると多くの場面で、反則をした側の選手はボールを遠くにけってしまう。あるいはボールのすぐ前に立ち、味方の守備組織ができる時間を稼ぐ。ミランもボカも、当然のようにそうした行為を繰り返した。しかしイワノフ主審は、ほとんどの場合、注意も与えなかった。
 国際サッカー連盟(FIFA)は、昨年のワールドカップ以来、主審に対して、こうした行為に厳然とイエローカード(警告)で対処するよう要求してきた。Jリーグ審判員の指導にあたっているレスリー・モットラム氏は、今季半ばに「遅延行為に対して甘すぎる」と審判たちに厳しく注意し、以後、Jリーグではほんのわずかな遅延行為にもイエローカードが出されるようになった。
 その判定基準に対して、「厳しすぎる」との批判がある。しかしこうした遅延行為は断じてサッカーのプレーの一部ではない。勢い余ってしてしまう類の反則ではない。不当な手段で試合を有利にしようという卑劣な行為であり、試合への興味をそぎ、サッカーの魅力を殺す行為だ。そして同時に、選手たちの意識次第で、簡単になくすことのできる行為でもある。
 この件に関して、私は、FIFAとモットラム氏の方針を全面的に支持する。
 ところが、日本国内で世界レベルの試合を見ることができる年にいちどの機会であるトヨタカップで、超一流主審が堂々と遅延行為を見過ごしてしまったのだ。それを見て、Jリーグのレフェリングが間違っているのではないか、あるいは、「世界基準」に則していないのではないかという疑問が出るのは当然だ。
 今回、遅延行為に対してこのようなレフェリングが行われたことについて、日本サッカー協会の審判委員会、そしてモットラム氏は、「自分たちの基準は間違っていない」という明確な声明を出す必要がある。同時に、FIFA、そしてトヨタカップの当事者であるヨーロッパと南米の両サッカー連盟に対し、今回のレフェリングと選手たちの行為に対し、厳重な抗議をしなければならない。
 もしこの試合をこのまま見過ごすなら、それは、「自分たちは間違っていた。今後は、笛の後に少しぐらいボールをけっても、フリーキックの位置から離れなくても、大目に見ることにする」と認めるのと同じことだ。
 遅延行為は本当に醜い。「サッカーの常識」に毒された人びとには想像もできないかもしれないが、それは、サッカーの自殺行為に等しい。この件に関しては、世界の現実に追随するのではなく、Jリーグの基準を世界に広げていく必要がある。
 
(2003年12月17日)
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