サッカーの話をしよう

No.505 新しいタイプのPKキッカーを

 PKのことが、少し気にかかっている。
 先月18日に行われたオマーンとのワールドカップ予選で、日本は前半29分にPKを得たものの中村俊輔が失敗した。コースは少し甘かったが、けっして悪いキックではなかった。しかしオマーンのGKハブシは、左に跳んでこのシュートをはじき出した。
 ジーコ監督になってからの21試合で、日本は3回PKをもらっている。昨年3月のウルグアイ戦、そして12月の香港戦だ。最初の1本はオマーン戦と同じ中村が、場所もほぼ同じ向かって右すみにけって決めた。そして2本目は、中村が不在の試合で三都主アレサンドロがけり、左上に決めている。成功率は3分の2。3本に共通するのは、左足キックだったことだ。

 PKの歴史は古い。アイルランドの弱小クラブでプレーするひとりのGKが考案し、アイルランド協会を通じてルール改正の公式機関である「国際サッカー評議会」に提案した。そして1891年の評議会で正式にルールに組み入れられた。
 考案者ウィリアム・マクラムとともに、公式戦での最初のPKキッカーの名前も歴史に残されている。ベルファスト(現在の北アイルランド)の「カナディアンズ」というクラブでプレーしていたJ・ドルトンというアメリカ国籍の選手だった。1891年8月29日のことだった。
 PKを、キッカーとGKの両側から見てみよう。ボールを置くペナルティースポットからゴールまでの距離は、ちょうど11メートル。ゴールの幅は7・32メートル。ゴール裏のテレビカメラを通じると、外すのが難しいほど広い角度のように見えるかもしれないが、ボールを頂点に37度の角度しかない。これにキッカーの緊張度を加味すると、どこにけっても取られそうに思えるほど狭く見えてしまうのだ。

 GKは、普通、ゴールライン上、ゴール中央に立つ。そこからポストまで3・66メートル。隅ぎりぎりにけられたら、計算上はとても届かない。ところが、GKには技術がある。ゴールライン上をまっすぐポストに向かって跳ぶのではなく、斜め前へと跳ぶのだ。「ペナルティースポットとポストを結ぶ線」への最短距離は、ゴールラインの中央からその線に下ろした「垂直線」となり、これだけで15センチもボールに近づくことができる。
 もうひとつ技術がある。キックの直前に1歩前に出るのだ。ルールでは「けられるまでゴールライン上にいること」となっているが、はなはだしい前進以外は、とがめられることはない。

 実はオマーンのGKハブシも、中村のキックの直前に1歩前進し、そこから「垂直線セービング」を見せた。1メートル前進すると、カバーできる範囲はさらに広がる。守るべき範囲は、ゴールライン上を跳んだときより46センチも短い3・2メートル。身長184センチのハブシ。右か左か、読みが的中すれば、キックを防ぐ確率は高くなる。
 こうした状況だから、最近では、PKは、正確さよりGKの反応を上回るボールスピードが求められているように感じる。とにかく強いキックで叩き込むというのが、最近のPKの傾向だ。
 日本代表の中村と三都主はいずれもテクニシャンで、正確なキックをするタイプだ。こうしたキッカーだと、GKが2つに1つのヤマをかけて跳んだとき、2本に1本は止められても仕方がないということになる。
 日本代表は新たなPKキッカーを探しておくべきだ。私なら、稲本潤一の思い切りの良さとパワフルなキックにかけてみる。通常、PKのキッカーは監督が決め、試合前にチーム全体に伝えておく。試合中の無用な混乱を避けるためだ。さて今夜、ジーコ監督は誰を指名するだろうか。
 
(2004年3月31日)
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