サッカーの話をしよう
No.542 チャリティーフットサル
カザフスタンに気持ちよく勝った翌日、友人に誘われて、彼のチームが出場するフットサル大会に出かけた。風は冷たかったが、きれいに晴れ上がった美しい日曜日だった。
このところ競技人口が急速に増えている5人制のサッカー、フットサル。初心者や女性を含めて手軽に楽しむことができ、とくにサッカーグラウンドの足りない都市部では人気が高い。以前テニスコートだったところが、いつの間にかフットサルコートになっていたりする。
その日大会が行われたのは東京・調布市にある味の素スタジアムの敷地内に昨年完成したばかりの屋内コート。なんと2階建てである。Jリーグの取材で前を通りかかるといつもにぎやかに試合が展開されていて感心していたのだが、上階にもコートがあるとは知らなかった。
足を痛めていて、自分ではプレーできそうもないのに出かけたのは、その大会が、元東京ヴェルディのMF北澤豪さんが発起人のチャリティー大会と聞いたからだ。
北澤さんは現役選手時代にカンボジアの子供たちの悲惨な状況を知り、サッカーを通じての支援を始めた。20年以上続いた内戦で国中が戦場と化したカンボジア。その最大の犠牲者は、家族も学校も失った子供たちだった。サッカーボールをプレゼントし、いっしょにプレーすることで、彼らに希望を取り戻してもらおうという個人的な取り組みだった。
やがて北澤さんは、ボランティア組織「アーク」代表の北條友梨さんと出会う。この組織はカンボジアに小学校を建設する活動をしていた。94年にスタート、翌年には早くも第一校完成にこぎつけた北條さんの活動に感銘を受けた北澤さんは、即座に参加を決意、以後、いろいろな取り組みをしてきた。
そして、北澤さんを中心としたサッカー関係者の努力で、アークの活動としては6校目、バランミンチェイという町の小学校がことし9月には完成するめどがついた。この日のフットサル大会は、こうした活動の一環だった。
参加費から経費を引いた残りが学校建設資金となる。参加者は多いほどいいが、あまりに多いとプレー時間が短くなり、楽しんでもらうことができない。チャリティーフットサル大会は初めての試みなので、今回は知り合いのチームだけに声をかけたという。
若手のばりばりもいる。足もとがちょっと怪しげな人もいる。日本サッカー協会チームのうち3人は女性だった(ものすごくがんばっていた!)。私の友人のチーム、FCワセダでは、GK氏の小学4年生の長男が大活躍した。チームをつくったばかりのハウス食品は、前日出来上がったばかりのユニホームを着てとてもかっこよかった。
しかしこうした「強豪」を押しのけて、マスコミチームが無敗で優勝してしまったのには驚いた。前夜遅くまで仕事をし、普段はペンや口は動かしても体など動かさない記者たちが、肩で息をしながら懸命にがんばった。
1プレー、1ゴールのたびに歓声が沸き、思いがけないファインプレーも出た。北澤さんも自分のチームを率いて参加したが、いっしょに活動しているブラジル人のレイナルドさんとともに、疲れ気味の他チームに助っ人としても出場、楽しそうにテクニックを披露した。北澤さんにアシストして「ナイスパス」とほめられた私の友人は、少年のように感激していた。
狭いコートで激しい動きを繰り返すフットサルは、見かけ以上にハードな競技だ。しかし「もう限界」と言いながら、みんな、こんな幸せな一日が終わるのを残念がった。
そして閉会式では、北澤さんや北條さんが静かに説明するカンボジアの子供たちの現状に、誰もが思いを寄せた。
(2005年2月2日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。