サッカーの話をしよう

No.545 2005年のルール改正は?

 「頭が出たらオフサイド、手が出てもオンサイド?」
 年にいちど開催されて今年が第119回になる「国際サッカー評議会」(IFAB)の年次総会が、今週土曜日(26日)、イギリスの南ウェールズ、カーディフ市の郊外にあるミスキン・マナーと呼ばれるホテルで開催される。
 サッカーの競技ルールの改正ができる唯一の機関であるIFAB。サッカー発祥の地であるイギリスの4つのサッカー協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)と、国際サッカー連盟(FIFA)の五者で構成されている。
 ルール改正には、8つの投票権のうち4分の3、すなわち6票以上が必要だ。投票権は、イギリスの各協会が1票、FIFAが4票という内訳だから、イギリスだけでは決められない、FIFAだけでも決められない。FIFAの会長がどんなに「優れた」アイデアを思いついても、競技ルールはすぐには変えられないというところに、この制度の今日的な意味がある。

 さて、ことしのIFABでは、16のルール改正案が検討のまな板に乗る。提案者は、5案件がFIFA、10案件がウェールズ協会、そして残りの1案件がスコットランド協会。開催地元のウェールズの張り切りぶりがうかがえて、何かほほえましい。
 だがそのなかには、「オフサイドになるのは、相手ペナルティーエリア内だけ」などという却下必至の提案もある。解釈を明確にするための条文表現の改訂など細かな提案を除くと、私が最も興味を引かれたのは、オフサイドに関するFIFAの提案だ。
 「後方から2人目の相手競技者より相手ゴールラインに近い」という規定を明確にするため、この条項に新しく「国際評議会の決定事項」(ルールの条文外に規定され、ルールと同様の拘束力をもつ)を付け加え、「頭、体幹、足のいずれかが出ていれば」という表現を盛り込むというのだ。

 ただし手あるいは腕が前に出ているだけではオフサイドにはならない。手では得点できないからというところに、たくまざるユーモアがある。
 「前に出ているかどうか」の判断は、これまで明確な規定がなかった。ただ、レフェリー間の国際的な合意として、「体の中心線」を目安として判断してきた。もし今回の改正案が可決されれば、これまでの判断基準とは少し異なるものの、基準自体は明確になり、副審には大きな助けになるのではないだろうか。
 この提案のほかにも興味深い改正案がいくつかある。ゴールした後に攻撃側の選手がボールを拾おうとすることへの妨害に対し、キックオフを遅らせる行為として警告にするというFIFAの提案。スローインのとき、相手チームの選手は1・83メートル(2ヤード)以上離れなければならないとするスコットランドの提案。無用なトラブルをなくすためにぜひとも可決してほしい提案だ。

 ことしのIFABでは、スポーツメーカーのアディダス社から、特殊なICチップ型発信機を内蔵したボールの説明が行われる。機械によるゴール判定のためのボールだ。そして、その使用実験を承認するかどうか討議される。
 1月にこの予定が発表されたときには、「FIFAが機械判定導入か」と、大きな話題になった。しかしこの討議はことしのルール改正とは関係がない。IFABから実験が承認されればことしのFIFAコンフェデレーションズカップ(ドイツ)で試し、結果を見て来年のIFABで正式な承認を受け、ワールドカップで使いたいというのが、FIFAの意向だ。
 この派手な話題に、他の案件は影が薄くなってしまっている形だ。しかしことしのIFABにも、重要なルール変更の提案がいくつもある。それを見逃したくない。
 
(2005年2月23日)
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