サッカーの話をしよう
No.550 埼スタ満足度アップ作戦
「埼スタ満足度アップ作戦」----。そのものずばりだが、どこかユーモラスで、企画した人びとの意気込みが伝わってくる名称の「大作戦」が、きょう実施される。
先週イランに敗れて、非常に重要な1戦となった今夜のワールドカップ・アジア最終予選、バーレーン戦。その会場となる埼玉スタジアム(通称「埼スタ」)への行き帰りを、少しでも楽しいものにしようという試みだ。
いまや「日本代表のホームスタジアム」といっていい埼スタには、大きな悩みがあった。アクセスの悪さだ。東京の地下鉄南北線に直結する埼玉高速鉄道の「浦和美園」駅が最寄り駅なのだが、スタジアムまでは徒歩で20分もかかる。少し遠くから来ている観客は、ナイターの場合、終電の時間を気にしながらの観戦になる。
「2月9日の北朝鮮戦では、通常以上のセキュリティー対策が取られたこともあり、行きも帰りも大変だったと、ファンから苦情が寄せられました」と、スタジアムを所有する埼玉県の県土木整備部公園課・澤正博さん。バーレーン戦はもっと快適に観戦してもらおうと、公園課とともに総合政策部交通政策課が中心になって検討が始まった。
そのひとつとして、試験的に行われるのが、試合前、浦和美園駅から埼スタまでのシャトルバス(所要8分間)の無料化。従来1人100円で運用してきたものを、埼玉高速鉄道の費用負担により無料で運行することにしたのだ。
5万9399人が観戦した2月の北朝鮮戦。往路ではそのうちの64パーセントにも当たる3万8358人が浦和美園駅を利用し、駅前から100便出されたシャトルバスの利用者は5330人、駅を利用した人の約13パーセントだった。これを無料にして、もっと多くの人に利用してもらおうというアイデアだ。
復路には浦和美園駅までのシャトルバスはないが、その代わり、埼玉新聞社の協力を得て「終電時刻案内」を試合前の駅前で配布する。
以前、ドイツのシュツットガルトで試合を見たとき、後半40分過ぎ、電光掲示板に最寄りの地下鉄駅から出る特別電車の時刻表が繰り返し掲出された。試合前に駅の時刻表を見たときには30分に1本程度だったので、増発されることを知りとても安心した覚えがある。
今回は、浦和美園駅の駅頭で配布される埼玉新聞の号外裏面に「広告」として掲載する。広告掲出料は50万円。県庁の広報予算から支出してもらったという。
試合後にはスタジアムの南広場で「プチ国際屋台村」が開かれる。韓国、タイ、メキシコなどともに、今回はバーレーン料理の屋台も並ぶという。終電時刻案内があるから、ビールを片手に安心して試合の話に花を咲かせることができるわけだ。
浦和駅、東浦和駅、北越谷駅からのシャトルバス(有料)については、途中の有料道路をノンストップ通過(後日精算)や、周辺信号の調整など、細かな対策も練られている。
「道路の改善など、まだまだ課題は山積しています」と、公園課の澤さん。しかし今回の埼玉県の取り組みには、いわゆる「お役所」感覚は皆無。試合日が迫るなか、観戦ファンの「満足度アップ」のため、できることからしていこうと、担当者たちが目を輝かせながら走り回って関係各方面を説得している様子が想像できる仕事ぶりではないか。
「埼玉新聞の号外は新聞社が配布しますが、私たちも駅頭に出て配布をお手伝いするつもりです」と、交通行政課の椎木隆夫さん。
施設がすばらしいだけでは足りない。こうした無数の人びとの努力が、埼スタを愛される本物の名スタジアムに育てていくに違いない。
(2005年3月30日)
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