サッカーの話をしよう
No.565 審判員にも試合中の給水の準備を
関東地方で梅雨が明けた18日、埼玉スタジアムで浦和×広島を見た。キックオフの午後7時でも、気温30度、湿度66パーセント。しかも無風で、サッカーのためのコンディションとしては本当に過酷だった。
1カ月半の中断が明け、7月2日に再開したJリーグ。今月は週末と水曜日の試合が2週連続し、これが5試合目だった。その疲れに暑さが加わり、両チームとも涼しかったころに比べて動きが少ないように見えた。そして主審も、ボールの動きについていくのが大変そうだった。暑さだけでなく、審判も「5連戦」の間、人によってはほとんど休みなく「出場」しているのだから大変だ。
「審判は、試合中にきちんと水を飲んでいますか」
暑くなってきたころ、ある審判員にこんな質問をした。
「ほとんど飲めません」
その答えに、私は小さなショックを受けた。
試合中、選手たちはプレーの停止中にタッチラインのところに立って外に置かれた水を飲むことが許されている。体温調整のための給水は、のどの渇きを自覚する前に行わなければならない。45分間のハーフの間に、少なくとも1、2回は給水しないと、高いパフォーマンスを続けることができなくなってしまう。
プレーの停止中とは、ボールがゴールラインやタッチラインを割ったとき、あるいは反則で試合が止められたとき。選手たちはすばやく近くにある水を飲む。
しかし審判たちは、こうしたときにも、何かトラブルがないか、緊張を強いられている。なかなか水を飲むチャンスがない。その結果、審判員たちは、更衣室を出てからハーフタイムに戻るまで、まったく給水しないケースが多くなる。
現代のトップクラスの試合では、主審は1試合に12から14キロも走る。副審は、選手たちやボールの動きに合わせてスプリントを繰り返すことを強いられる。ボールをめぐる競り合いこそないものの、かなりハードな「アスリート」と言ってよい。そのアスリートが45分間も給水しないのは、現代スポーツ医科学の観点から言っても間違っている。
「外国での試合へ行くと、負傷した選手を見にはいってきたドクターが、主審にも水を渡してくれたりするんです。でも日本ではそういうことはあまりないですね」
そんな話も聞いた。日本のドクターやトレーナーたちは、自分の選手のことで頭がいっぱいなのだろうか。
日本の審判員たちは、選手たちには給水を勧めても、自分はがまんをしているようなところがあるようだ。しかしそれは、「アスリート」として正しい態度ではない。
審判員も、いまの日本のような暑さのなかでは試合中の給水が不可欠であることを強く自覚する必要がある。同時に、審判員がうまく給水できるような準備が必要だ。
両タッチラインの外、ハーフラインのあたりに審判用の水を用意しておけば、副審の給水はできる。逆のエンドでのCK前など、チャンスを見つけられるはずだ。
しかし常にピッチの中にいる主審が試合中に給水するのは、本当に難しい。負傷のケアのためにピッチ内にはいるドクターやトレーナーの協力が不可欠だ。そして、主審が積極的に給水する意識をもつとともに、選手たちも、主審が水を飲めるよう気を配り、協力する必要がある。
真夏のピッチに立つと、こんなコンディションでサッカーをするのは、よほどの酔狂のように感じるときがある。相手チームも審判もその酔狂の仲間だ。過酷な状況を「生き残る」には、仲間として力を合わせるしかない。みんなで暑さと戦うしかない。
(2005年7月20日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。