サッカーの話をしよう
No.567 東アジア選手権
韓国南部の3都市、大田、全州、大邱を舞台に、東アジア選手権が開催されている。日本は男女とも北朝鮮に0−1の負けという残念なスタートだったが、どの試合も熱気があふれていて楽しい。
この大会の画期的なところは、男女の試合が巧みに組まれていることだろう。男女とも1回総当りで、初日の7月31日には韓国×中国、北朝鮮×日本の男子2試合が行われた。そして翌日には、まったく同じ組み合わせで女子の試合が行われた。各チームの2試合目は、同じカードの男女の試合が同じ日に連続して行われる。3日には日本×中国、4日は韓国×北朝鮮。そして6日と7日は、残る中国×北朝鮮と韓国×日本で、6日に女子、7日に男子の試合が組まれている。
もちろん正式には別の大会だが、今大会は特別に「男女総合優勝」という表彰制度が設けられ、男女の勝ち点を合わせて順位を争うという試みも行われる。開幕の2週間ばかり前に発表された「思いつき企画」だが、悪くない。
この暑さのなか、短期間で3試合をこなすのは大変だ。とくに女子は6日間で3試合をこなさなければならない。しかし男子の大会と組み合わされていることで注目度が上がり、選手たちにとってはやりがいがあるに違いない。
こうした大会方式は、おそらく世界で初めてのことではないか。男女とも急速に世界のレベルに追いつきつつある(女子の中国はずっと世界のトップレベルだったが)東アジアの4カ国。試合結果だけでなく、男女の組み合わせ大会の面白さも、世界に伝えられていくだろう。
ひとつ残念なのは、大会が4カ国だけの対抗大会のような印象を与えていることだ。男子の大会は、正式には「東アジア選手権2005決勝大会」。東アジアサッカー連盟(EAFF)の選手権で、加盟9カ国のチャンピオンを決める大会である。「決勝大会」は4カ国しか出場しないが、当然、「予選」が行われている。
日本、韓国、中国の3カ国は予選なしのシード。残りの国ぐには、3月にチャイニーズ・タイペイ(台湾)に集まり、予選を開催した。マカオが棄権したが、残るチャイニーズ・タイペイ、グアム、香港、北朝鮮、モンゴルの5カ国が総当り1回戦を行い、北朝鮮が全勝で決勝大会出場を決めた。4試合で得点31、失点0という強さだった。
大会の役員には、当然、出場4カ国だけでなく、EAFF全加盟国の人びとが含まれている。しかしそうした人びとは表に出てこない。
EAFFは2002年に誕生したばかりの組織。広大な地域をカバーするアジアサッカー連盟(AFC)の下には、東南アジア、西アジア、南アジアと、地区ごとに組織がつくられていたが、唯一、東アジア地区だけ組織化が遅れていた。日本がリーダーシップをとってようやくそれが実現したのが、日本と韓国を舞台に開催された2002年ワールドカップの直前だった。東アジア選手権は2003年に日本で第1回大会が開催され、韓国が優勝している。
初代会長は日本の岡野俊一郎氏(現在は韓国の鄭夢準氏)。事務総長は日本の岡田武夫氏で、事務局は東京の日本サッカー協会のビル内に置かれている。しかしワールドカップの出場記録だけでなく、サッカーの歴史や競技人口などに大きな差があり、今回の決勝大会に出場した4カ国の力が突出する一方、他の5カ国は非常に影がうすい。
選手と手をつないで入場する「エスコートキッズ」やボールボーイを、決勝大会出場を逃した国ぐにから招待し、試合前に紹介するなどしたらどうだろう。全加盟国が参加し、それがファンにもわかるような大会運営ができたら、EAFFの存在とその意義をもっと強くアピールできるように思う。
(2005年8月3日)
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