サッカーの話をしよう

No.590 レフェリーも寒さ対策を

 細かなことだが、以前から気になっていたことがある。レフェリーたちは寒くはないのだろうか----。
 関東地方では、先日の日曜日(14日)はいきなり気温が上がって春のような陽気になったが、翌日にはまた寒さが戻ってきた。こんなに寒い冬はあまり記憶がない。そうしたなかでサッカーはシーズンの終盤を迎え、天皇杯、高校選手権など、いくつもの大会があった。
 元日に行われた天皇杯の決勝戦は、気温5・6度という寒さのなかの試合だった。なかには清水DF山西のように半そで姿の選手もいたが、大半の選手が長そでのユニホームだけでなく手袋を着用してプレーをしていた。しかし上川徹主審は素手だった。廣嶋禎数副審も手塚洋副審も素手だった。そういえば、テレビでヨーロッパの試合を見ても、手袋をしているレフェリーなどあまり見たことはない。

 ヨーロッパの選手たちには、手袋どころか、「ネックウォーマー」と呼ばれるスポーツ用の襟巻きで首の部分を覆い、サッカーパンツの下に長いタイツを着用している者もいる。昨年12月に日本で行われたFIFAクラブワールドチャンピオンシップでも、サンパウロFCの左MFジュニオールが黒いタイツをはいてプレーしていた。
 こうした防寒対策をとるのは、軟弱なためでも、もちろん、ファッションでもない。最高のパフォーマンスのためであり、同時に、無用な負傷や故障を避けるためだ。なかでも手袋の果たす役割は小さくない。手は、体温の調整に重要な役割を果たす。いくら体を温めても、手先が冷たかったらさむけが取れないという経験は誰にもあるだろう。手の甲や指先が冷えると集中力に影響するという説もある。

 ではなぜ、レフェリーたちは手袋をしないのか。そうした指導をされているわけでも、まして禁止されているわけでもない。それでも、選手たちの大半が手袋をするような寒い日に、レフェリーたちは素手で走り回っている。
 タイミングを逃さずに笛を吹いたり、判定に合わせてスムーズにイエローカードを出すためには、素手のほうが都合がいいのかもしれない。しかしそれ以上にあるのが、「美意識」なのではないか。
 レフェリーは「ルールの番人」であり、試合中は常に毅然とした態度を示さなければならない。当然、服装も、選手たちの模範となるものでなくてはならない。手袋はそのイメージを壊すように感じているのではないか。
 しかし私は、レフェリーたちも防寒の必要性をもっと考える必要があると思う。

 近年、試合前に両チームがピッチに出てウォームアップしている最中に、レフェリーたちもハーフライン上を往復しながらウォーミングアップしている姿をよく見る。90分間にわたって広いピッチを走り続けなければならないサッカーのレフェリーは、ただの「審判員」ではない。試合前の姿からもわかるように、彼らも「アスリート」なのである。
 昨年夏、このコラムで「アスリートとして、審判も意識的に試合中の水分補給を行わなければならない」と書いた。防寒対策もまったく同じだ。必要なときには、手袋でもタイツでも堂々と着用し、最高のレフェリングをできるように努めるのがレフェリーの責務ではないか。
 試合を見ていれば、レフェリーと呼ばれる人びとががまん強いのは間違いない。しかしそのがまん強さは、サポーターからのいわれのない批判や選手や監督の粗暴な言動に対するものだけで十分ではないか。暑いときにはこまめな水分補給を心がけ、寒いときには試合前に防寒対策をきちんとする----。それはきっと、より良いレフェリングをもたらしてくれるはずだ。
 
(2006年1月18日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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