サッカーの話をしよう
No.594 ゴールからボールを拾うな
サッカーのルール改正を審議する国際サッカー評議会(IFAB)の年次会議が、3月4日にスイスのルツェルンで開催される。ことしの注目は、遅延行為を撲滅しようという取り組みだ。
ルール第12条(ファウルと不正行為)の「警告となる反則」の「4」に挙げられている「プレーの再開を遅らせる」違反(遅延行為)について、具体例を示す「決定事項」を追加しようというのが、国際サッカー連盟(FIFA)の提案だ。
その具体例とは、フリーキック、スローイン、コーナーキックで相手チームのリスタートになったとき、意図的にボールに触れ、それによってプレーの再開を遅らせたり、相手とのいさかいの原因をつくる行為だ。これらの行為にイエローカードを出すというガイドラインは以前から出されていのだが、まったく徹底されなかった。そこで、より拘束力のある「決定事項」にし、イエローカードを出すことをレフェリーに義務付けるというのである。
昨年のワールドユース選手権(オランダ)でも、同様の基準が試験的に採用された。だがボールに少し触れただけでイエローカードが出される例もあり、あまりに四角四面な印象を受けた。今回の提案では、「それによってプレーの再開を遅らせる場合」などの条件がつき、「問答無用」ではなくなっている。
国際サッカー連盟(FIFA)はこの新決定の採用に非常に意欲的で、今回のIFABで可決される可能性は高いと見られている。新ルールの施行は7月1日だが、ワールドカップは新ルールが適用されるのが通例だ。出場国は気をつけなければならない。
ただ、日本代表にはあまり混乱はないだろう。Jリーグではすでに2003年からこうした基準のレフェリングが徹底されているからだ。
「むしろ世界がJリーグの基準に合わせてきた」と、日本サッカー協会の高田静夫審判員長は胸を張る。
しかし今回の新決定事項の提案には、日本では実施されていない要素がひとつある。得点後のボールの処理だ。
94年ワールドカップ予選イラン戦での日本のFW中山雅史を記憶しているファンも多いだろう。0−2から終盤に1点を返したとき、中山はゴール内からボールを拾い、全速でセンターサークルに戻りながら「もう1点!」とチームメートを鼓舞した。ゴール後のキックオフを急がせようと、こうした行為をするケースは多い。
その一方で、リードしているチームが得点を決めたときにも、ゴール内のボールを拾い、高々とけり上げて相手の戦意をくじこうという行為も横行している。
今回の提案には、「相手のキックオフを遅らせるために、得点した側の選手がゴール内からボールを拾う」行為もイエローカードの対象になるとある。では、中山のようにキックオフを急がせるためなら、得点した側が拾ってもいいのだろうか。
得点後のボールの処理については、時間の浪費よりも、そのボールをめぐって醜い小競り合いになることが問題だろう。そのトラブルの防止には、「相手のキックオフを遅らせるために」という文言は削除し、単純に得点したチームの選手がボールを拾う行為を禁止する形にするべきだ。レフェリングの基準はできるだけシンプルなほうがいい。
リードしているチームが失点し、なかなかボールを拾わないときには、レフェリーの出番だ。ロスタイムをしっかり取るとともに、時間の浪費が露骨なら、ボールから最も近くにいる選手(多くはGKだろう)にイエローカードを出せばよい。
いずれにしろ、この提案がIFABで可決されたら、7月1日を待たず、できるだけ早くJリーグで施行し、選手に慣れさせておく必要がある。
(2006年3月1日)
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