サッカーの話をしよう
No.614 監督たちの話
監督たちのことを考えている。
先週、横浜F・マリノスの岡田武史監督が辞任、後任の水沼貴史新監督の下、横浜FMは京都サンガを4−0で下して4試合ぶりに勝利を飾った。敗れた京都は4試合連続の4失点。柱谷幸一監督は苦境に立たされている。その1週間前には、FC東京がアレシャンドレ・ガーロ監督を解任し、後任の倉又寿雄監督の初戦でジェフ千葉を4−3と大逆転で下した。
今季が始まって6カ月近く。すでにJ1の18クラブ中7クラブで監督の交代があった。そのうちひとつは、イビチャ・オシムが日本代表の監督に就任し、息子のアマル・オシムが後を継いだジェフ千葉だから、監督を「解任」、あるいは監督自身が「辞任」したクラブが、全体の3分の1ということになる。
優勝争いの期待を裏切ったクラブ、思いがけなく下位に低迷しているクラブ、残留争いに巻き込まれそうであわてているクラブ...。事情はさまざまだが、いずれにしても「勝てない」ことが理由であることは同じだ。
昨年、最終節まで優勝を争い、旋風を巻き起こしたセレッソ大阪は、今季開幕から4連敗と不調に陥り、小林伸二監督はわずか8試合で解任された。勝負の世界の常とはいえ、プロチームの監督は厳しい仕事だ。
しかし世界は広い。自他ともに認める「サッカー王国」ブラジルでは、監督たちの運命はさらに、はかない。
先週、リオデジャネイロの名門クラブ、フルミネンセはことし5人目の監督を迎えた。水曜日の全国選手権でパルメイラスに0−3で敗れた後、ジョスエ・テイシェイラ監督を解任し、アントニオ・ロペス監督の就任を発表したのだ。テイシェイラ監督の在任はわずか2週間、4試合だった。
そもそもフルミネンセの監督交代劇の始まりは、8月中旬にこのクラブが「ことし3代目」の監督であるオスバルド・オリベイラを解任したことだった。オリベイラは、同じ日にクビになったパウロ・セサル・グスマンの後を継いでクルゼイロの監督に就任した。
グスマンも休んではいない。名門コリンチャンスからのオファーを受けて辞任したエメルソン・レオンの後釜としてサンカエタノの監督に就任、コリンチャンスを辞任したジェニーニョは、アントニオ・ロペスが辞任したばかりのゴイアスの監督となった。間に2週間ばかりテイシェイラがはさまったとはいえ、ロペスがフルミネンセの監督に就任したことで、5クラブ間の「監督たらい回し」が完成したことになる。
ことしになってから、ブラジル全国選手権の20クラブでは、延べ31回の監督交代劇があった。どうやら、ブラジルのサッカー界というのは、監督たちにとって、同じクラブで1年間活動するのも難しい場所であるらしい。
Jリーグはそれほどでもない。18クラブでわずか7回である。F東京の倉又監督と横浜FMの水沼監督は最初の試合でさっそく好結果を出したが、名古屋のヨセフス・フェルフォーセン監督のように、負けが込んで下位に低迷し降格の危機に立ちながらも信頼を受けて仕事を続け、就任半年後の7月下旬から一気に花開いたように連勝し、成績を向上させた例もある。
「監督には2種類ある。すでにクビになった監督と、これからクビになる監督だ」という有名なジョークがある。何年間も同じクラブで指揮をとることができる幸運な監督はほんのひと握りにすぎない。負けが込めば、苦境を脱するのに手っ取り早い方法は、監督の交代だからだ。
プロチームの監督とは、ひとときは栄華に包まれ、持ち上げられていても、いつ解任や辞任に追い込まれるかもしれない不安定な仕事なのだ。
(2006年8月30日)
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