サッカーの話をしよう

No.619 スタジアム命名権とFIFA

 先日、ワールドカップ2006ドイツ大会の中間決算が明らかになり、日本円にして百数十億の利益が出たというニュースが伝えられた。大きなアクシデントもなく立派に運営され、サッカーの面でもハイレベルだった大会が、財政面でもプラスだったことは喜ばしい限りだ。
 しかしこの大会に「大きなウソ」が2つあったことは、今後の大会を考える面でも忘れてはいけない。
 そのひとつは入場者数の発表だ。正確な数字が出されず、毎試合、スタジアムのキャパシティの数字が大げさにアナウンスされるのには辟易した。何人の人が実際にスタジアムで観戦したかは、試合のスコアと同じように重要な「記録」だと思うのだが、主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)の目には、入場者は「何万何千」というかたまりでしか映っていなかったようだ。

 そしてもうひとつの「ウソ」がスタジアム名だ。この大会で使用された12スタジアムのうち、大会で正式名称が使われたのはわずかに4つ。残りの8スタジアムはすべて正式名称にスポンサー名がはいっていたため、大会限定で違う名称が使われたのだ。
 「FIFAの大会ではスポンサー名のついたスタジアムは使わない」という方針の下、たとえば開幕戦が行われた「アリアンツ・アレーナ」は「FIFAワールドカップスタジアム・ミュンヘン」という無味乾燥な名前とされた。
 日本では、自治体がスタジアムを建設してから、そのランニングコストを補うために「命名権」の販売が行われるのが普通だ。しかしドイツを含めたヨーロッパでは、スタジアムの建設あるいは大改修にかかる費用の何十パーセントかを負担してもらう見返りとして数十年間の命名権を与えるという形が多い。すなわち、企業の貢献がなければ、ワールドカップ・ドイツ大会で使われた12のスタジアムのうち8つは姿を現さなかったかもしれないのだ。

 サッカーではここ10年間ほどの傾向だが、スポーツ施設全体を見ると、命名権販売は新しいものではない。その最初は1926年、アメリカ大リーグ野球のシカゴ・カブスが使うスタジアムの「リングレー・フィールド」だという。リングレーはチューイングガムのメーカー名である。以来、北米では命名権売買が当然になり、現在ではいろいろな競技の121トッププロチームの使用施設のうち、83スタジアムにスポンサー名がついているという。
 サッカーでは、1994年にイングランドのハダーズフィールドが新設したスタジアムに「マカルパイン」という建設会社の名前がつけられたのが最初だ。イングランドで最新のスタジアムであるアーセナルの新スタジアム(ロンドン、今夏オープン)では、総建設費約780億円のうち約200億円をUAEの航空会社「エミレーツ」が負担し、15年間の命名権を獲得した。

 現在、2010年ワールドカップを開催する南アフリカや、その次の14年大会の開催が確実なブラジルのスタジアム建設が大きな問題になっている。新設の計画はあっても費用捻出のめどがたたず、建設が一向に始まらないのだ。FIFAは両国政府に圧力をかけているが、政府が出すということは、それぞれの国民が負担しなければならないということを意味する。
 超一級の施設を求めながら、その建設費捻出についてはほおかぶりというFIFAの態度は、まったくフェアではない。今後、FIFAが本当にワールドカップを5つの地域連盟で持ち回りにしようと考えているのなら、スポンサー名のついたスタジアムをワールドカップで認める必要がある。そうすれば、外国企業からの出資が望めるからだ。
 ワールドカップのメインスポンサーとバッティングするのが心配なら、そうしたスポンサーたちに、南アフリカの新スタジアムの命名権を優先販売したらどうか。
 
(2006年10月4日)
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