サッカーの話をしよう
No.632 ラトビア協会のある決定
旧ソ連、「バルト3国」の真ん中に位置するラトビア。日本代表が2005年の10月に訪れ、対戦したことのある国だ。2004年にヨーロッパ選手権の決勝大会に進出したこともあるが、アイスホッケーとバスケットボールの人気が高く、サッカーは「発展途上」の状況にある。
そのラトビアのサッカー協会(LFF)が新しい規則をつくって話題になっている。1部リーグに属する全8クラブに、女子チームをもつことを義務づけたのだ。同時に、下部リーグのクラブも、少なくともひとり女性コーチを置き、サッカーに興味のある少女たちの指導に当たらせなければならないことになった。
「発展途上」のラトビアでは、サッカーグラウンド自体が不足しており、そのグラウンドをプロチーム、ユースチーム、アマチュアチーム、そして少年チームの優先順位で使うため、女子だけのクラブは、練習場所にも試合会場にもこと欠いていた。それを男子のクラブの一部門にすることによって、環境を整えようという狙いがある。
ここ数年間、ドイツ、イングランドなどヨーロッパのいくつかの国では、女子サッカーが驚異的な伸びを示している。男子のトッププロと呼ばれるクラブが積極的に女子チームをもち、その強化に力を入れているからだ。ラトビアもそれに続こうというのだ。
日本でも、浦和レッズが2005年からLリーグ(現在のモックなでしこリーグ)所属の「さいたまレイナス」を「浦和レッズレディース」として傘下に収め、資金面だけでなく、指導面、チームの人的サポートなどで大きなプラスをもたらした。過去20年間以上にわたって日本の女子サッカーをリードし、女子日本代表のバックボーンとなってきたのは、かつての読売サッカークラブ、現在の東京ヴェルディと同一クラブの「日テレ・ベレーザ」だ。
しかし現在のJリーグ31クラブを見渡すと、女子チームをその活動の一環に入れているクラブはわずか数クラブしかない。
Jリーグは、プロとしての興行を行うだけでなく、自前でサッカー選手を育て、サッカーの文化を広げていくことを目指している。そのため、18歳以下、15歳以下、そして12歳以下という3つの年代の男子チームをもつことを各クラブに義務付けている。しかし「女子チーム」は含まれていないのだ。
楽な経営をしているところなどほとんどない現在のJリーグ・クラブ。しかしだからといって、いつまでも「女子サッカーは無関係」と言っていたら、その地域の「サッカー文化」は偏ったものになってしまう。いきなり「なでしこリーグ」のチームをもつ必要はない。しかしサッカーに興味をもっている少女たちを指導し、その夢を広げていく手助けはすぐにでもできるはずだ。Jリーグは、女子サッカーにも責任感をもつべきだと、私は思っている。
(2007年1月24日)
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