サッカーの話をしよう
No.633 ジブラルタル
先週金曜日(1月26日)、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)の会長選挙でミシェル・プラティニ(フランス)が現職のレンナート・ヨハンソン(スウェーデン)を破って当選した。そのビッグニュースの影にあまり注目されない小さなニュースがあった。イギリス領ジブラルタルのUEFA加盟が否決されたのだ。
ドイツのデュッセルドルフで開催された総会で、UEFAはセルビアから分離したモンテネグロの加盟を認めた。しかしジブラルタルについては、賛成3票、反対45票という結果だった。
ジブラルタルはイベリア半島の南端近くに突き出た半島。18世紀以来イギリスの領有下にはいり、現在ではイギリス海軍の重要な拠点のひとつになっている。面積6・5平方キロ、東京・千代田区の半分ぐらいの国土の大半は「ザロック」と呼ばれる巨大な岩山で占められ、わずかばかりの平地に約2万8000の人びとが暮らしている。その3分の2がスペイン系だが、国籍はイギリスだ。
ジブラルタル・サッカー協会(GFA)は1895年創立。世界で6番目に古い協会だという。登録選手は563人。それでも1部から3部リーグ、女子リーグ、15歳から7歳まで2歳刻みのジュニアリーグなどを運営している。ナショナルスタジアムは空港に隣接するビクトリア・スポーツパーク。3000人収容、人工芝のピッチがある。
99年からUEFAへの加盟運動をしてきたGFA。妨げになったのは登録選手数の少なさや「国連加盟の独立国にしか加盟を認めない」というUEFAの規則だけではなかった。難しい政治問題があった。スペインは300年近くにわたってジブラルタルの領有権を主張してきており、UEFA加盟など断じて認めるわけにはいかなかったのだ。
昨年6月、「ジブラルタル代表」はFIFA未加盟の国によるワールドカップ(「FIFIワイルドカップ」、ドイツのハンブルクで開催)に出場、3位の好成績を残した。
「いきなり国際大会の予選に出るのは無理だが、ユースやフットサルの大会に出場できれば...」と、GFAのヌネス会長は、UEFAの決定を前に希望を語っていた。過去10年、ユースの育成に力を注いできたおかげで、ジェイソン・プセイという将来有望なタレントも生まれた。17歳のプセイはすでに「代表」でプレーしており、スペインの有力クラブからも目をつけられているという。
今回の決定により、「ジブラルタル代表」の赤いユニホームがワールドカップ予選などで活躍する姿を見ることはできなくなった。しかしスペイン協会は、UEFA加盟には反対したものの、GFAに対し、資金面の援助や指導者・審判員養成に力を貸すと約束している。指導者を養成し、国際的に認められるタレントを育成することから、ジブラルタルの新しい「サッカー・ドリーム」がスタートを切る。
(2007年1月31日)
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