サッカーの話をしよう
No.654 1対1はゴールへ向かうな
カナダで行われている「U−20(20歳以下)ワールドカップ」。日本の初戦は、ヨーロッパ予選で2位という強豪スコットランドに対する見事な勝利だった。
大柄な相手に対し、小気味良くパスを回し、ドリブルで突破し、守備でも鋭い出足でボールを奪ってリズムをつかんだ。3−1の勝利は当然の試合内容だった。
そのなかで「おや?」と思うシーンがあった。後半30分過ぎ、MF柏木(広島)の見事なスルーパスでFW森島(C大阪)が右からフリーで抜け出したときだ。決定的なチャンスだったが、シュートは前進したGKマクニールの体に当たってはね返された。
「おや?」と思ったのは、U−20ワールドカップだけでなく8月から始まる北京オリンピックのアジア最終予選でも活躍が期待される森島のような選手でも、GKとの1対1の基本的なプレーができていなかったからだ。
DFラインを完全に置き去りにして、GKさえ破れば得点となる「1対1」は、1試合に1回あるかどうかという絶好機。これを確実に決められれば得点力はぐっと上がるし、チームも楽になる。しかし実際には、森島のケースのようにGKに防がれることが非常に多い。ドリブルの「方向」が間違っているのだ。
大半の日本のストライカーは、どんな場合でもゴールにまっすぐ向かってドリブルしていく。追走してくる相手DFにつかまる恐怖があるからだ。しかしGKから見ると、これは非常にありがたい。
GKのポジションはボールとゴールの中心を結ぶ線上が基本だ。相手がまっすぐ向かってくれば、左右にポジションを動かさずに冷静に前進のタイミングを計りさえすればよい。GKにとっては失うものなどない状況。思い切り相手の足元に飛び込むと、シュートは体のどこかに当たる。
少しでも左右どちらかのサイドからの突破だったら、ストライカーが向かうべきは「ゴール」ではなく「シュートを打つ場所」だ。シュート力にもよるが、常識的にはペナルティーエリア正面の「アーク」と呼ばれる弓形の周辺だろう。
ここに向かっていけば、最終的にゴール正面の最も得点の確率の高い場所からシュートができる。そのうえGKから見れば左右にポジションを修正しなければならず、より難しい状況になる。ストライカーは、シュートのときに驚くほど優位に立っていることがわかるはずだ。
それだけではない。逆サイドからカバーをする相手DFがきたとしても、この方向のドリブルはDFにとってはピッチを横切るような動きに感じられ、タックルのポイントがつかみにくく、非常に嫌なプレーなのだ。
GKとの1対1の状況で得点の確率を上げる秘訣は他にもいくつかある、しかしまずは「ゴールに向かう」という無意識のプレーを捨て去り、GKの立場から見て守りにくいドリブル方向を工夫する必要がある。
(2007年7月4日)
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