サッカーの話をしよう
No.658 4カ国共同開催は成功だったか
インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国共同開催によるアジアカップが、イラクの初優勝で幕を閉じた。
これまでも、2カ国共同開催の国際大会はあった。2000年のヨーロッパ選手権(オランダとベルギー)、2002年のワールドカップ(日本と韓国)などだ。ヨーロッパ選手権は、来年の2008年大会もオーストリアとスイスの共同開催で行う。しかし4カ国による共同開催は初めてのこと。いわば「実験的」と言ってよい大会だった。
4つのホスト国は、それぞれの首都で大半の試合を開催した。ジャカルタ(インドネシア)、クアラルンプール(マレーシア)、バンコク(タイ)、そしてハノイ(ベトナム)だ。
各国サッカー協会は、1会場に絞って開催の準備をすればよかったから、どの会場も施設面、試合運営ともに問題はなかった。むしろ配慮が行き届いた良い運営だったと思う。問題は各開催国間の移動、とくにチームの移動だった。1次リーグは1国1グループで開催したため移動はなかったが、決勝トーナメントにはいると移動が始まり、問題が表面化した。
最北のハノイと最南のジャカルタでは3000キロもの距離がある。しかも直行便の数は少なく、乗り継ぎ便が使われることも多かった。次の試合会場に行くのに、10数時間かかることも珍しくなかった。
大会の公式スポンサーにはUAEのエミレーツ航空がはいっていたが、東南アジアの各国を結んでいるわけではないので役には立たない。少なくともチームの移動だけは、直行のチャーター便を出すべきだった。
しかしこの問題を除けば、運営面上はあまり不都合なことはなかった。
そしてそれ以上に、4カ国共同開催はアジアのサッカーに大きなプラスになったと、私は感じた。
4カ国は、出場チーム全16チームのなかで最も力が落ちると見られていた。4カ国とも1次リーグ全敗で終わるかもしれないとまで言われていた。
しかしフタを開けてみると、タイがイラク(優勝チームだ!)、オマーンと引き分け、ベトナムはUAEに勝ってカタールと引き分け、インドネシアもバーレーンに勝ち、サウジアラビアとは1−2の接戦を演じた。マレーシアだけは懸念どおりの結果に終わったが、ベトナムはベスト8に進むという健闘だった。
東南アジアは古くからサッカーの盛んな地域だったが、近年は西アジアや東アジアの国ぐにに追い抜かれ、「弱小地域」になっていた。しかし地元で大会を開催できれば強豪とも五分の戦いができることを全アジアが知り、強く勇気づけられたに違いない。
どの大会にも問題や不手際はある。しかし今回の「4カ国共同開催」は、アジアサッカーの将来のために大きなプラスになったのではないか。だから私は、「成功だった」と思うのだ。
(2007年8月1日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。