サッカーの話をしよう
No.663 女子ワールドカップが始まる
来週月曜日、中国の上海で第5回FIFA女子ワールドカップが開幕する。
FIFA(国際サッカー連盟)主催の大会が月曜日に始まるのは珍しい。16チーム参加、全32試合で9月30日(日)に決勝戦なら、8日(土)に開幕する23日間の大会日程が標準だが、この大会は2日間短い。9日(日)まで韓国でU−17ワールドカップが開催されているからだ。
ここ数年でずいぶん人も増えたが、元来FIFAは小さな組織で、大会を重ねて主催することはない。少なくとも大会間に1カ月は空ける。ところがことしは主催大会が目白押し。仕方なく「なか0日の連続開催」となった。9月10日朝、ブラッター会長をはじめとしたFIFAの幹部は大あわてでソウルから上海に移動することになる。
女子ワールドカップはFIFAのアベランジェ前会長の熱意で1991年に中国で第1回大会が実現した。95年の第2回大会はスウェーデン、99年の第3回大会はアメリカ、そして2003年の第4回大会も連続してアメリカで開催された。本来ならこの大会は中国で開催されることになっていたのだが、新型肺炎(SARS)騒ぎで急きょ開催国が変更されたのだ。ことしの大会は、その「仕切り直し」ということになる。
「サッカーの未来は女子にある」と、第1回大会に際してアベランジェ前会長は語った。その言葉のとおり最近の女子サッカーの発展はすさまじい。FIFAの公式調査によると2000年の時点で女子の競技人口は約2200万人だった。それがわずか6年間で2600万人となり、男子を含めた総競技人口の約10パーセントに達した。女子ワールドカップも、試験的な12チーム出場から第3回大会には16チームとなった。次回、2011年大会には24チーム出場に増やされる可能性もある。
従来、女子ではワールドカップよりオリンピックのほうが重視される傾向にあった。96年のアトランタ五輪で女子サッカーが正式種目になったとき、FIFA自身が前年のワールドカップをその予選としたほどだった。しかしヨーロッパや南米の「サッカー先進国」が意欲的に女子のセミプロ化を進めるなかで、ワールドカップへの関心も急速に高まってきた。
日本女子代表「なでしこジャパン」は5大会連続出場。間違いなく16チーム中最も小さく、パワーも最も弱いが、4大会連続出場のMF澤穂希を中心にしたパス攻撃とキャプテンのDF磯﨑浩美を中心とした粘りの守備は、十分世界のトップに通じるものがある。
スピードやパワーでは男子のサッカーに遠く及ばない。しかし技術に大差があるわけではない。闘志は男子以上かもしれない。そして何よりも、プレーがフェアで、男子のサッカーには失われてしまった「美しさ」がある。機会があったら、ぜひテレビで観戦してほしい。
(2007年9月5日)
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