サッカーの話をしよう

No.673 サポーターを育てるもの

 イタリアでまたサポーターをめぐる事件が起きている。
 高速道路のサービスエリアで、それぞれ別の試合に向かうクラブのサポーター同士が衝突した。介入した警官の威嚇発砲がひとりのサポーターを直撃し、彼は死亡した。このニュースを聞いた他クラブのサポーターが、それこそイタリア全土のスタジアムで警備の警官たちを「人殺し」とののしり、場所によっては暴動に発展したという。
 イタリアでは、ことし2月に南部のカターニャでサポーター同士の暴動に巻き込まれた警官が死亡し、大きな事件になった。それ以来政府はスタジアムでの警備をより厳重にしたため、サポーターとの軋轢が高まっていた。そうした背景があるだけに、問題は単純ではない。

 さて日本では、ひとつのクラブのサポーターがあらためてクローズアップされている。今夜「アジアチャンピオン」の座をかけてイランのセパハンと対戦する浦和レッズのサポーターだ。Jリーグが始まったころは「万年最下位」で後にはJ2降格も経験した浦和が、リーグを制覇し、アジアのチャンピオンの座に近づいた。その要因のひとつとして、熱烈なサポーターの存在が挙げられているのだ。
 ホームスタジアムを真っ赤に染め、相手チームにプレッシャーをかけるだけではない。アウェーでも、それが韓国やイランの地方都市であろうと、多数の浦和サポーターがかけつけ、声を限りに声援を送った。その声がどれだけチームを勇気づけただろうか。いまメディアが浦和のサポーターにスポットを当てているのはまことに当を得ている。

 今季のJリーグを見渡すと、「浦和を追え」とばかりにサポーターに元気が出てきたクラブが目立つ。相変わらずスタジアムを満員にしている新潟だけでなく、川崎、柏、甲府、千葉などでサポーターのパワーが高まってきている。しかし浦和はやはり別格だ。
 1993年にJリーグがスタートしたころには、どのクラブも同じように熱いサポーターをもっていた。しかし数年のうちに浦和だけが突出してしまった。なぜだろうか。

 浦和は、クラブのプロ化前から「サポーターをサポートする」という考え方を貫いてきた。サポーターを重要な仲間ととらえ、意見を聞き、とことん話し合って、どうしたらスタジアムを「より良い空間」にできるか、ともに考えた。プロのサッカークラブの最優先の重要な仕事は強いチームをつくることだが、浦和の場合、チームと同じように「強いサポーター」をつくる努力を続けてきたのだ。
 浦和の選手層の厚さはよく知られているが、観戦に向かう車中を見渡すだけでサポーターも層が厚いのがわかる。まさに老若男女、性別や年齢、職業を問わず、誰もが「私がレッズを勝たせる」の意気に燃えた表情をしている。
 先に日本一になったサポーターを追うように、チームもJリーグを制覇した。そして今夜、浦和とそのサポーターは、ともに「アジア一」の称号をつかもうとしている。
 
(2007年11月14日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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