サッカーの話をしよう
No.677 ヘディングの強化は急務
19世紀なかばにサッカーが誕生したときには、「ヘディング」という技術はなかった。発明したのはイングランド中部、シェフィールドクラブの選手だったという。
ことし1年、いろいろなカテゴリーの日本代表あるいはクラブチームの国際試合を見てきた。そのすべてに共通する日本選手の弱点のひとつが、ミッドフィルダーたちのヘディング能力の低さだった。
背の高さやジャンプ力といったフィジカルな要素の問題ではない。日本のミッドフィルダーの多くは、足では非常に巧妙にボールを扱い、自信をもったプレーを見せるのに、ボールが空中に浮くと一気に無力になってしまうのだ。
ロングボールの競り合いに限らず、小さくボールが浮いたときも、近くに相手選手がいると日本の選手が頭で処理したボールの半数以上は、力なく相手チームの選手に渡る。足でボールを扱うときにはいくらでもパスをつなぐことができる日本選手が、ヘディングになると、とにかく前にはね返すだけで、「ボールの行方はボールに聞いてくれ」というようなプレーになってしまうのだ。
相手チームを見ると、ヘディングも足でのプレーと同じように正確で、しかもきちんんとした判断が伴ったものであることがわかる。不十分な態勢でヘディングをしようとしている相手選手に日本選手が詰め寄っても、相手選手の頭から放たれたボールは正確に味方に渡り、そこから攻撃が続けられていく。
オーストラリアやサウジアラビアと対戦した男子のアジアカップ、イングランド、アルゼンチン、ドイツと対戦した女子ワールドカップ、そして韓国やイランのチームと対戦した浦和のアジアチャンピオンズリーグ...。相手チームと比較した日本のミッドフィルダーたちのヘディング能力の低さは、いずれにも共通するものだった。
ヘディングの力がクローズアップされるのは、得点に直結するゴール前の攻防だ。日本の選手たちも、そのトレーニングは十分積んでいる。クロスからのヘディングシュートやクリアだ。CKやFKの競り合いもよく訓練され、長身選手の多いチームと対戦してもなんとか対抗できるようになってきた。
ところがミッドフィルダーたちは、そうしたボールの出し手であり、またクリアされたボールを拾う役割を負わされていることが多い。そして浮いたボールがきてもできるだけ胸などを使ってコントロールしようとする。練習でも試合でもヘディングをする機会が極端に少なく、結果としてヘディングの能力を伸ばすことができないのだ。
国内の試合はそれでも十分間に合う。しかし国際舞台に立つと、とたんに大きな弱点であることを露呈し、本来ならしなくてもいい苦労をすることになる。
ミッドフィルダーたちのヘディング能力を鍛えなければならない。そうでないと、せっかくの足でのプレーの優秀さが勝利につながらない。
(2007年12月12日)
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