サッカーの話をしよう
No.678 カカは新時代のスーパースター
ACミラン(イタリア)の優勝で幕を閉じたFIFAクラブワールドカップ(FCWC)2007は、ミランのブラジル人MFカカ(25歳)の才能を世界に再認識させる大会だった。
先にフランスフットボール誌の「バロンドール」を受賞、今週月曜日には国際サッカー連盟(FIFA)の年間最優秀選手にも選出された。ミランの中心選手として5月にUEFAチャンピオンズリーグ優勝の立て役者となり、年末のFCWCでも優勝とともにMVP。2007年はまさに「カカの年」だった。
「カカ」という名を知ったのは2002年ワールドカップのとき。横浜で行われた決勝戦、ブラジルがドイツを2−0とリードして迎えた後半ロスタイムにブラジルは3人目の選手交代をしようとした。タッチラインに立ったのが、そのとき背番号23、カカだった。しかし実際に交代が行われる前にイタリアのコリーナ主審が試合終了の笛を吹き、彼は決勝戦のピッチに立つことはできなかった。
1982年4月22日生まれ。20歳で最初のワールドカップに臨んだカカは、結局、1次リーグ、コスタリカ戦の後半、ブラジルが5−2とリードした後に18分間出場しただけだった。
本名リカルド・イゼクソン・ドス・サントス・レイチ。ブラジルの連邦首都ブラジリア出身。FCWCの準決勝で対戦した浦和のFWワシントンは故郷の大先輩に当たる。カカというニックネームには特別な意味はなく、弟が「リカルド」を発音できずに呼び始めたものだったという。
FCWC決勝戦でカカを見ながら、「こんなスーパースターがかつていただろうか」と考えた。彼に先立つスーパースターといえばブラジル代表の先輩でもあるロナウジーニョ(バルセロナ所属)。ふたりを比較してみると、カカの「異才」が理解できる。
ロナウジーニョをはじめとしたこれまでのスーパースターは、ボールを受けてからのプレーで他を圧する力を見せる選手たちだった。ひとつのボールタッチで状況を変化させ、得点を演出し、チームに勝利をもたらすのだ。
しかしカカはボールがくる前に非常に幅広く動く。その動きで味方のためにスペースをつくり、攻撃とチーム全体を動かす。そしてこうした動きをしながら、彼は必要な場所に絶妙のタイミングで現れ、決定的な仕事をする。その瞬間に、彼の天才がある。
FCWC決勝戦の4点目のときの動きとワンタッチでのFWインザーギへのパス、そしてわずかにゴールを外れたものの後半38分にカフーのクロスに合わせてゴール前に飛び込んだときのスピード...。偉大なチームプレーヤーでもあるカカは、「新時代のスーパースター」と言える。
「今日のサッカーでは走れない選手は必要ない」と、イビチャ・オシムさんは口癖のように話した。カカの躍動的なプレーを見ながら、現代のサッカー選手に求められる資質をあらためて考えた。
(2007年12月19日)
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