サッカーの話をしよう
No.685 世紀の愚行
「エイプリルフールかい?」思わずそう聞いてしまったのは、ミドルスブラのサウスゲート監督だった。
2月7日、イングランドのプレミアリーグに所属する全20クラブは、リーグの公式戦を海外で行う計画を決議した。誰が考えたのか、そのシステムはなかなか巧妙だ。
現在、20チームのホームアンドアウェー、1チームあたり38試合で優勝を争っているプレミアリーグ。それを各チーム1試合増やす。それは「1節分、計10試合」にあたるが、これを海外で行う。2試合ずつ組み、ひとつの週末に世界の5都市で開催する。この「39試合目」もリーグの成績に含める。そしてその5都市は、入札によって、すなわち、より高い「開催権料」を約束したところに売るというのである。
プレミアリーグは、現在、世界で最も高い関心を払われ、最も多くの収益を上げているリーグだ。観客数ではドイツのブンデスリーガに及ばないが、放映権では人気ナンバーワンで、世界中で放映されているからだ。
「プレミアリーグの過剰な放映拡大は、世界各国で地元のクラブやリーグの成長に悪影響を与えている」
昨年、そう警鐘を発したのは、国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長だった。タイ、マレーシア、中国などで、地元のプロリーグの試合よりも、プレミアリーグの放送のほうがはるかに高い関心をもたれている。
FIFAは3月の理事会でこの計画について議論すると発表している。今回、いち早く反応したのはFIFA理事のひとりでもある日本サッカー協会の小倉純二副会長だ。
「原則的に日本チームがからまらない外国チーム同士の試合は許可していない。Jリーグとクラブを守るためにも、日本での開催には反対する」
「外」からの反対を待つまでもなく、国内のメディアも批判的だ。「サッカーは魂を売った」(『エキスプレス』紙)などと厳しい。プレミアリーグ・クラブの監督たちもサウスゲートのような意見が一般的だ。ヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)のプラティニ会長は、「何かのジョークだろう? だいたいイングランド・サッカー協会自体が許さないだろう」と語っている。
プレミアリーグは、この計画を10〜11シーズンにスタートし、第1回は11年の1月になるとしているが、周囲の状況から見て、実現は非常に困難のように思える。
しかし今回の騒動は、ヨーロッパのプロクラブの「世界戦略」について考え直すいい機会ではないか。プレミアリーグのような極端な計画ではなくても、イングランド、スペイン、ドイツなどのクラブはその市場を世界に広げ、地元のサッカーを圧迫し始めている。日本でも同じだ。
ところが現状は、肝心のJリーグやそのクラブが「プレシーズンマッチ」と称し、嬉々として彼らと対戦し、自らの「マーケット」を脅かす行為に荷担してしまっている。Jリーグやそのクラブの健全な発展は、日本のサッカーの基礎だ。それに対する脅威が、いまや「外」からもきていることを意識する必要がある。
(2008年2月13日)
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