サッカーの話をしよう

No.686 光る看板、シルエットの選手たち

 東アジア選手権が開催されている中国・重慶のスタジアムで、興味深い光景を見た。「光る広告看板」である。
 ピッチの周囲に配置された広告看板のうちいちばん目立つ位置にあるハーフライン付近の2枚が「電光広告」方式だった。大会が開幕した2月17日の重慶は濃霧。大気汚染と相まって一日中黄色がかった霧のなかだった。当然、選手たちの動きも見にくい。そのなかで、広告看板だけが光り輝いていたのである。

 1年半ほど前のこのコラムで、「電光広告看板の禁止を」という内容の記事を書いた。ヨーロッパで流行し始めた動画方式の広告看板が、快適な観戦の妨げになるという主張だった。重慶の電光広告はその「簡易版」ともいうもので、動画を映せるわけではなく、ロゴが光るだけだった。何分かごとのローテーションで大会スポンサー名が映されるというものだった。
 それでも薄暗いグラウンドのなかでその看板は衝撃的なほど自己の存在を主張していた。そしてその前でプレーが行われると、選手が光を背景にシルエットになった。

 私は、電光方式の広告看板はサッカーの試合にはふさわしくないと考えている。ピッチの周囲の広告看板自体を否定するわけではないが、それは平面に描かれたもの(その平面が動くものも含め)に限定されるべきだと思う。
 現代のプロサッカーを支えているのはテレビ放映権や広告看板の販売などからはいってくる資金であることは間違いない。しかしこうした商業活動ができるのは、スタジアムが観客で埋まり、スペクタクルな雰囲気で試合が行われているという事実がベースにあることを忘れてはならない。制裁などで「無観客」を強いられた試合が、恐ろしく間の抜けたものになることを、私たちは何回も見ている。
 何よりも優先されるべきは観客の快適性のはずだ。電光方式の広告看板は観客の試合への集中を妨げる。映画館で上映中にスクリーンの上部に絶えず広告が流されていたら、どう感じるだろうか。電光方式の広告看板とは、すなわちそういうものなのだ。

 1年半前の時点で、ヨーロッパでもこの方式はまだ主流ではなかった。国内では、浦和レッズのホームで、クラブが管轄するゴール裏の、しかも通常の広告看板の背後に置かれたものだけだった。監督や選手たちが「プレーしづらくなるから」と、ゴールラインのすぐ背後に設置することを反対したためだった。
 しかしヨーロッパでは完全に電光看板が主流になった。浦和では昨年からゴール裏の看板が電光方式になった。そしてJリーグでも、今季から毎節1試合、バックスタンド側のリーグ公式スポンサーの広告看板が電光式となる。
 電光式にすると、広告の訴求力が高まり、広告価値が上がって収入が大幅にアップするのだという。収益増大は大事なことだ。しかし快適な観戦環境とのバランスを忘れたら、元も子もなくなる。
 重慶のスタジアムの「光る看板、シルエットの選手たち」は、現代のサッカーに対するサッカーの神様からの警鐘のように感じられた。


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(2008年2月20日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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