サッカーの話をしよう
No.688 男女日本代表が1枚の写真に
日本サッカー協会の公式ホームページに興味深い写真が掲載されている。男女の日本代表がいっしょのチーム写真に収められているのだ。「JFAオリジナル壁紙」として、誰でも無料でダウンロードできる。
男女そろって出場した東アジア選手権の開幕前に中国の重慶市内で撮影したもの。前列中央に男子の岡田武史監督と女子(なでしこジャパン)の佐々木則夫監督。後列中央、黒いユニホーム姿のGKたちの身長に大きなでこぼこがあるのがご愛嬌(あいきょう)だが、41人の選手が並んだ写真に違和感はない。
実はこれ、イングランドのアーセナルをまねしたものだ。女子ヨーロッパカップで初優勝を飾ったのを機に、アーセナルは、昨年夏、男女のトップチームが1枚に収まったポスターをつくった。
ベンゲル監督率いる男子チームはUEFAチャンピオンズリーグの常連で、欧州でも屈指の強豪だ。しかしセミプロの立場でしかない女子も、同じアーセナルというクラブの旗を掲げるチームである。男女の違いを超え、力を合わせて再び欧州のタイトルに挑もうという趣旨だった。
これを「発見」した上田栄治・日本サッカー協会女子委員会委員長(元なでしこジャパン監督)の働きかけで、男女代表がそろった重慶で「日本代表版」の撮影が実現した。アイデアは借用だが、ナショナルチームのこうした写真は、おそらく世界でも初めてなのではないだろうか。
現代のサッカーは二極化が極限に達している。「稼ぐ者」と「稼がない者」の二極化だ。アーセナルを含むヨーロッパのトップクラブのスターたちは十数億円もの年俸を稼ぐ。一方で、実力では劣らなくても、南米でプレーしている選手たちの多くはその百分の一程度ももらっていない。
日本サッカー協会でいえば、協会全体の年間収入の3分の2を占める男子日本代表に対し、女子代表は出費ばかりの状況だ。それでも日本協会は惜しみなくなでしこジャパンの強化に力を注ぐ。女子サッカーも同じサッカーの仲間であり、なでしこジャパンは日本代表と並ぶ日本サッカーの「顔」だからだ。
いま、日本は男子も女子も「日本人の長所を最大に生かしたサッカー」を目指している。男子は惜しくも優勝を逃した東アジア選手権だったが、女子は試合ごとに調子を上げて3戦全勝で優勝を飾った。もし男子の代表選手たちが試合を見ていたら、なでしこジャパンから学ぶところも多かったのではないだろうか。
ところで今回1枚の写真に収まった男女の代表には、1組、かつて「チームメート」だった選手たちがいる。誰と誰かわかりますか?
正解は、なでしこジャパンのキャプテン澤穂希選手と、男子のMF中村憲剛選手。2人は小学生時代に「府ロク」という東京の強豪少年チームでプレーしていた。澤選手が6年生のときに中村選手は4年生だったが、澤選手は男子に交じって堂々たるエース。中村選手にとってあこがれの選手のひとりだったという。
(2008年3月6日)
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