サッカーの話をしよう
No.689 ことしはルール改正なし
ことしは、実質的にルール改正がない。
3月8日、サッカーのルール改正を検討する国際サッカー評議会(IFAB)の年次総会がスコットランドで開催された。ルールの改正は2つのみ。第1は、国際Aマッチでのピッチの大きさが縦105㍍、横68㍍に限定されたこと。これまでは縦横とも10㍍ほどの許容範囲があった。そして第2は、国際サッカー連盟のボール検定のロゴマークの変更である。ともに、一般のサッカーにもJリーグにも影響を及ぼすものではない。
昨年のFIFAクラブワールドカップで使用されたゴール判定システムのテストの凍結が決議され、それに代わるものとしてゴール裏に配置される第3、第4の副審のテストが認可された。他にもいくつかの議論が行われたが、おそらく、過去20年間で最も静かな総会だっただろう。
80年代まで、サッカーのルールの変化は非常に穏やかなものだった。しかし90年代以降は毎年多くのルール変更が行われた。そしてそのいくつかは、サッカーというゲーム自体を大きく変えた。
オフサイドルールの改正(90年)、得点機会阻止への厳罰(退場処分、91年)、GKへのバックパス禁止(92年)、テクニカルエリアの設置(93年)、選手交代枠の拡大(95年)、勝ち点制度の改正(95年)、ボールを保持したGKのステップ数制限をなくし、時間制限だけにする(2000年)...。これらは、サッカーという競技の最大の魅力である得点を増やすことが狙いだった。
もうひとつの重要な要素として、選手の安全を守ることを狙いとしたルール改正も多かった。すね当ての義務化(90年)、後方からの無謀なタックルに対する厳罰(退場処分、94年)、ひじ打ちに対する厳罰(退場処分、94年)、出血した選手のゲーム参加一時停止(97年)などである。
ことしのIFABで目立ったルール改正が行われなかったのは、90年代に始まった「新時代に即したサッカーのルールづくり」と呼ぶべきものが一段落したということなのだろうか。IFABは、97年に全面的に用語などを改め、書き直したルールブックを、再度書き直し、よりシンプルに、よりわかりやすいものに改めると言う。
さらに、ルールそのものの変更ではなく、昨年来、審判に対する追加的な指示や審判法の標準化を進めるガイドラインを示すことに力が注がれ始めている。昨年のルールブックでは、こうした内容の記述部分が、ページ数にして、ルール本体の記述の1.5倍にもなった。
1863年に最初のルールが書かれたときには、全部で14条だった。145年後のいまも、ルール自体は全17条と簡素なままだ。しかしサッカーは時代とともにある。21世紀にもサッカーが世界で最も愛されるスポーツであるためのルールであるかどうか、これからも考え続けていく必要がある。
(2008年3月12日)
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