サッカーの話をしよう

No.691 世界を席巻するブラジル

 川崎フロンターレのブラジル人FWジュニーニョ(30)が日本国籍取得の意向を明らかにし、話題になっている。昨年のJリーグ得点王である。手続きがスムーズに進めばワールドカップのアジア4次予選に間に合うのではないかと期待されているのだ。
 日本にはすでに三都主アレサンドロと田中マルクス闘莉王という2人の「帰化選手」がいる。古くは70年代のネルソン吉村、80年代のジョージ与那城、90年代のラモス瑠偉、呂比須ワグナーと、何人ものブラジル人選手が日本国籍を取得して日本代表チームの戦いに貢献してきた。
 そしていま、この傾向は世界に広がろうとしている。ポルトガルのデコ、スペインのマルコス・セナ、クロアチアのエドゥアルド・ダシルバなど、ヨーロッパの国々の代表チームに続々と「元ブラジル人」が登場してきたのだ。
 国際サッカー連盟(FIFA)の規定では、代表歴がない選手なら、その国に2年間以上居住し、かつ国籍を取得できれば、その国の代表選手になることができる。
 「10年後のワールドカップでは、出場選手の半数がブラジル人になっている」
 こんなジョークにも笑えない状況なのだ。
 代表チームだけではない。世界各国のプロリーグで、ブラジル人が活躍するようになった。昨年1年間だけで、驚くことに1252人ものブラジル人選手が外国のクラブに移籍したという。移籍先の大半はヨーロッパだ。
 かつて、ブラジル人選手のヨーロッパ移籍といえば言葉が同じでしかも外国人扱いされないポルトガルと決まっていた。スペインやイタリアなどのビッグクラブで活躍する選手もいたが、それはごく少数のブラジル代表のスーパースタークラスだった。ところが今日ではロシアやクロアチアなどのリーグにもブラジル人選手がいる。当然、多くは代表歴などない選手たちだ。
 いまやサッカー選手はブラジルの「主要産品」のひとつと言っても過言ではない。クラブの総収入の30%は選手を外国のクラブに売ることで得られるものであり、その額はクラブのベーシックな収入であるはずの入場券売り上げの4倍にもなるという。
 選手の大半はヨーロッパで成功して「セレソン(ブラジル代表)」に招集されることを夢見ている。それがかなわないと悟ると、別の道でワールドカップ出場の夢を果たそうとする。
 現在、日本には60人を超すブラジル人のプロ選手がいる。J1では18すべてのクラブでブラジル人が中心選手として活躍しており、その総数は40人にもなる。監督は2人だけだが、コーチは14人いる。
 ワールドカップでは過去18回のうち5大会を制覇したブラジル。過去10年間のFIFA年間最優秀選手賞でもその半数の5回をブラジル人選手が受賞している。そうした派手な舞台だけではない。日常のサッカーのなかで、「ブラジル」は世界の隅々にまで侵入し、勢力を伸ばし、世界を席巻しようとしているのだ。

(2008年3月26日)
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