サッカーの話をしよう
No.692 オマーン戦は夜に
両チームが入場し、国家演奏が始まったころはまだ空席が目立っていた。外を見ると、ぞろぞろと歩いてくる人がいる。3万人収容のスタンドが埋まったのは、前半の半ば過ぎだっただろう。
3月26日のワールドカップ予選、バーレーンとのアウェーゲームのキックオフは日本時間で午後11時20分、現地時間で午後5時20分。バーレーン国民の多くが関心をもつ試合といっても、平日のこの時間では人が集まらないのは当然だ。
なぜこんなに早いキックオフになったのか。それは、試合を中継する日本のテレビ放送の都合だった。
人口約70万のバーレーンと1億3000万の日本では放映権料の桁が違う。その結果、日本のファンが見やすい時刻にキックオフを設定することになる。それによりピッチ周囲の広告看板の販売も容易になる。実際、この試合の広告はすべて日本企業のものだった。
バーレーンではキックオフ時に気温30度ほどだったからまだよかった。だが日本代表が再びアラビア半島を舞台に戦わなければならない6月7日のオマーン戦は非常に心配だ。
試合が行われる首都マスカットの6月は、平均気温が40度。ときには50度に達するという。バーレーン戦のような早いキックオフとなったら、それだけで厳しい戦いとなる。
アラビア半島ではサッカーの試合のキックオフは通常午後8時か9時と遅い。日中の熱気が去った後でないと観客もつらいからだ。マスカットより5時間早い日本では翌日の午前1時か2時ということになる。
たしかに、こんな時間のキックオフではテレビ放映のスポンサー獲得に支障があるかもしれない。しかし午後5時や6時のキックオフにしたら、日本代表はオマーン以上の強敵を相手にしなければならなくなる。
バーレーンに敗れただけでなく試合内容も思わしくなかった日本代表。6月のオマーンとの連戦は絶対に落とすことのできない試合となった。しかしアウェー戦の5日前、6月2日にはホームでの対戦があるから、3月のバーレーン戦のときのように早めに中東に出発して暑さに慣れるトレーニングをこなすこともできない。
テレビとファンの都合より、日本代表がいかに戦いやすくなるかを優先してキックオフ時刻の交渉をする必要がある。ワールドカップ予選は、チームだけでなく、一国の総合力の戦いでもある。
(2008年4月2日)
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