サッカーの話をしよう

No.694 アクチュアルタイムを60分に

 「サッカーはいつ始まるのかな...」。ハーフタイムに、思わずつぶやいてしまった。先週末のJリーグ、東京V対F東京の「東京ダービー」である。
 同じスタジアムをホームとする同士、当然意地がある。意地と意地のぶつかり合いはファウルの応酬となり、前半はまるで格闘技。30分過ぎにはあわや乱闘というシーンまであり、まったくサッカーにならなかった。
 サッカーは前後半45分間ずつ。負傷者の手当てや選手交代で空費された時間は主審の判断で追加される。私の計測ではこの試合の前半は48分12秒間あったが、実際にプレーが動いていたのは20分間以下という印象だった。
 驚くには当たらない。試合のなかで実際にプレーが動いている時間を「アクチュアルタイム」と呼ぶが、昨年のJリーグ306試合の平均は約54分間だった。半分では27分間である。「東京ダービー」の前半のような試合なら、20分間を切ってもおかしくはない。事実、昨年のJリーグの最短記録は1試合で39分間だった。
 Jリーグではボールがピッチ外に出るとすぐに他のボールが渡される。拾いに行く時間は不要だ。アクチュアルタイムが短くなる主な原因は、主として、反則があってからフリーキックなどで試合が再開されるまで時間がかかることだ。
 反則した側が「ボールに行った」と主審に異議を唱える。ファウルを受けた側は倒れたまま「カードだろう」と主張する。意図的にボールに近いところに「壁」をつくり、守備組織を固める時間をかせぐ。壁のなかで、攻撃側と守備側が引っ張り合い、それを主審が注意する...。
 仮にアクチュアルタイムが20分間だったとすると、観客はロスタイムを含めて28分間もこんなシーンを見せられていたことになる。そして仮に入場料が4000円だったとすると、前半分の2000円の6割、1200円分は「サッカーではない何か」に支払っていることになる。
 この試合は、後半の20分を過ぎると見違えるようにスピーディーになり、止まっている時間が大幅に減った。だがそれまでの65分間は「サッカー」とは呼べないものだった。
 Jリーグは試合ごとのアクチュアルタイムを発表するべきだ。それが少なくとも60分間になるよう努力しなければならない。昨年のJリーグで最長のアクチュアルタイムは70分間だったという。
 
(2008年4月16日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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