サッカーの話をしよう
No.698 資源のむだづかい
「資源のむだづかい--」。試合を見ながら、なんどもこんな言葉が頭をよぎった。
5月17日のJリーグ浦和対G大阪。ホームの浦和は渾身の攻めを見せたが、G大阪の守備は固く、崩しきれない。押し込んではいても、点がはいりそうなのはFKやCKなどのリスタートぐらい。その攻撃を見ながら浮かんできたのが冒頭の言葉だった。
味方がボールを受けに寄ってきてもなかなかパスが出ない。タイミングよくパスを受ける動きをしても、ボールをもった選手はその動きを「おとり」に使い、自分へのマークを外してドリブルで進もうとする。そうしたプレーが頻繁に出た結果、浦和の攻撃は相手の懸命な守備にとらえられてしまったのだ。
Jリーグレベルの試合になると、どちらのチームもある段階までは苦もなくパスを回しているように見える。しかし実際には、互いに一瞬でもスキがあればボールを奪回しようと狙っている。パスがつながっていくのは、ボールを保持した側がいろいろな仕掛けを講じて次々とパスの受け手をつくりだしているからなのだ。
その仕掛けの重要なひとつが、スペースをつくり、そして生かすことだ。たとえばマークを引き連れてひとりが動く。すると彼がいた場所が誰もいない状態になる。そこにすかさず別の選手が走り込んでパスを受ける。
ひとりでもスペースはできる。前に出る動きをしておいてマークを動かし、急に反転して最初に自分がいたところに戻ってパスを受けるのだ。
このように、スペースは攻撃側の重要な味方と言える。だが大きな問題がある。「ナマもの」と言っていいほどこわれやすいのだ。走り込みやパスが少し遅れると、あっという間に相手選手がはいってきて消してしまう。
それはあたかも電力資源のようなものだ。電力はどんな仕事でもしてくれるが、貯めておくことはできない。つくった瞬間に使われなければ、永遠に使うことはできない。
G大阪戦の浦和には、スペースをつくってパスを受ける動きをしてもそれを生かすパスがなかなか出なかった。一瞬パスが遅れたために、受け手が相手に厳しい当たりを受けることも多かった。
その原因は単純ではないのだろう。しかしスペースを的確に使えないチームが勝つのは難しい。資源は無限ではないのだから...。
(2008年5月21日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。