サッカーの話をしよう
No.703 EUROが教えるハードワーク
オーストリアとスイスを舞台に開催されているヨーロッパ選手権(EURO)も今晩から準決勝。大詰めだ。この大会でいま話題を独占しているのがヒディンク監督(オランダ)率いるロシアだ。
1次リーグの初戦ではスペインに1-4で完敗を喫したが、ギリシャに1-0、スウェーデンに2-0で連勝し、準々決勝に進んだ。相手はオランダ。それまでイタリアに3-0、フランスに4-1と、想像を絶する破壊力を見せてきた優勝候補の筆頭だった。
だがロシアはたじろがなかった。激しい動きでオランダのパスワークを遮断すると、持ち前の機動力を駆使し、延長の末3-1で快勝、ベスト4へと名乗りを挙げたのだ。
とにかくよく走る。それも全速力で、何人もの選手が連動して走る。スペースをつくりそれを生かす動きが次々とつながる。その結果、相手はどんなに守備組織を固めても対応できない。オランダ戦の勝負は、延長後半にはいってからの運動量の差でついた。
今回のEUROで目立ったのが、技術の高い選手が労を惜しまずに走ることだ。ロシア快進撃の立役者であるFWアルシャビンだけではない。PK戦で準決勝進出を阻まれたクロアチアのMFモドリッチも、チーム随一のテクニックの持ち主であると同時に屈指のハードワーカーだ。
準々決勝のトルコ戦、クロアチアに延長後半の先制点をもたらしたのは、味方に鮮やかなスルーパスを出した後、足を止めずにサポートし、ゴールライン際にこぼれたボールを猛ダッシュで拾ったモドリッチが上げた正確なクロスだった。
興味深いのは、アルシャビン172センチ、モドリッチ174センチと、ともに小柄なことだ。大柄な選手たち全盛の現代サッカーで、小柄なテクニシャンたちがスピードと機動力で勝負を決定づけている。そして彼らは、判断の速さ、チャレンジ精神、リーダーシップなどでサッカーに生命力を与えているのだ。
「日本人には日本人に適したサッカーがある。そのサッカーで世界を驚かせるのは不可能ではない」
かつてイビチャ・オシムはそう言って私たちを励ました。しかしそのためには賢くなければならず、かつ技術をもち、そして何よりもハードワーカーでなければならない。今回のEUROから、日本の選手たちは自分に欠けているものが何かを感じ取らなければならない。それはけっして「身長」ではない。
(2008年6月25日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。