サッカーの話をしよう

No.707 試合の筋書き

 「試合に『筋書き』があるんだよ」
 2年ほど前、ドイツに住む友人からこんな話を聞いた。強豪チームの戦い方には一定の法則がある。それを彼は「試合の筋書き」と名付けたのだ。
 2つのチームが1個のボールを争い、相手のゴールを目指すサッカー。どんな試合でも、片方のチームがずっと主導権を握っているなどということはない。主導権は、互いに行き来する。
 UEFAチャンピオンズリーグを中心にデータを分析したところ、強豪が主導権を握るのは前半の20分まで、さらに30分過ぎから前半終了まで。そして後半も同じ形になることが多かった。それは意図的につくられた「筋書き」ではないか―。
 非常に興味深い推理だと思った。日本が世界の強豪と戦うとき、立ち上がりは苦戦しても20分を過ぎるとパスが回るようになる。ところが前半の終盤はまた苦しくなり、後半も同じ形。仮に0-0でしのいでいても、終盤に決勝点を奪われることが少なくない。
 アテネ・オリンピックでは、初戦のパラグアイ、第2戦のイタリアとも、最初に失点を喫し、結局それを返しきれずに連敗した。
 友人の「筋書き論」に対し、私の推理は「最大エネルギー論」だった。彼らは、前後半45分をどう戦えば90分間で最大のエネルギーを使いきることができるか、長年の勝負経験のなかで無意識に身につけている。それが形になったのが「筋書き」なのではないか―。
 日本ではよく「試合のはいり方」の良し悪しを云々する。しかし好スタートだけでは勝てない。相手がどんな時間帯に主導権を握ろうとするのか、それを理解すれば、その時間帯にどんなプレーをするべきかも自ずと明らかになる。
 「主導権を握る」とは、全員がよく動いてパスをつなぎ、攻撃を連続させることを意味している。では、主導権を握れないとき、強豪はどんなふうにその時間帯をしのぐのだろう。友人は別のデータの話をしてくれた。
 スペインのFCバルセロナは、チーム全体の動きが落ちたら、ともかく個人技をもった選手に渡し、時間をかせいでもらう。ある試合では、後半20分から30分にかけてのチームの総ボールタッチ数の3割をロナウジーニョひとりが占めていた。
 これも興味深いデータだ。北京オリンピックに挑む日本代表の戦いのヒントになるのではないだろうか。
 
(2008年7月23日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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