サッカーの話をしよう
No.714 中東の女子サッカーブーム
ことしの5月末から6月上旬にかけてベトナムで開催された女子アジアカップ。出場全8チームは、東アジアが5、東南アジアがオーストラリアを含めて3という内訳だった。
オーストラリアを除けば、アジアの女子サッカーは完全に東アジアが主導権を握っている。北京オリンピックでも日本が4位、中国がベスト8にはいり、北朝鮮もブラジル、ドイツという強豪と互角に渡り合った。だがその「アジアの勢力図」は、10年以内に大きく変わるかもしれない。西アジア勢の台頭だ。
イランや中東諸国では、ほんの数年前まで女子サッカーなど「無」に等しかった。イスラムでは女性が髪の毛や体の線を出すことが禁じられているからだ。外出するときにはベールで髪や顔を、そして長衣で体を隠さなければならない。サッカーなどもってのほかだった。ところがここ2、3年の間に、宗教的戒律が厳しい国でも大きく状況が変わってきているのだ。
ことし6月にベトナムで開催された女子のアジアカップには、初めてイランがエントリーし、予選の第2ラウンドまで進んだ。決勝ラウンド進出こそ逃したが、FWマハムディの終盤の決勝点でチャイニーズ・タイペイに3-2と競り勝った試合は、この国の女子サッカーの歴史に残るに違いない。
アラビア半島の国々でも女子の活動が盛んになっている。バーレーンでは中学校の女子サッカー大会を開催して選手を増やし、ことし6クラブでリーグ戦が始まった。3チームによるリーグ戦が行われているオマーンでは代表チームを組織すべく監督が任命された。UAEでは外国企業の女子チームを交えたリーグ戦が始まった。
ヨルダンでも、クウェートでも、そしていまだ平和にはほど遠いパレスチナでも、かつては禁じられていた女子サッカーが2年ほど前に公式に認められ、過酷な環境のなかで選手がどんどん増え始めている。サウジアラビア、カタールといったとりわけ戒律の厳しい国でも、大学内だけでの活動ながら、ことしから女子サッカーが始まったという。
長袖のユニホームを着、足にはタイツをはき、髪の毛もスカーフで覆ったままプレーしている選手も少なくない。しかしおそらく、そうした制約などサッカーをプレーできる喜びに比べたら何でもないだろう。西アジアの女性たちが本気でサッカーに取り組み始めた。東アジア勢も安閑としてはいられない。
(2008年9月24日)
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