サッカーの話をしよう
No.715 カタールに制裁を
国際サッカー連盟(FIFA)がほっと胸をなでおろしている。エメルソンの問題だ。
そう、01年から05年にかけて浦和で大活躍したブラジル人ストライカーだ。05年7月に突然カタールのアルサードに移籍、サポーターを失望させた。
そのエメルソンがことし3月26日にドーハで行われたワールドカップ・アジア3次予選のイラク戦にカタール代表としてフル出場、2-0の勝利に貢献した。カタールがイラクを出し抜いて4次予選に進出できたのはこの勝利のおかげだった。
エメルソンは06年10月にカタール国籍を取得したが、99年にU-20ブラジル代表で南米選手権に8試合出場した記録があった。浦和在籍中にも「エメルソンを日本人に」という動きがあったが、この記録のために断念を余儀なくされていた。
しかしことし2月、3次予選の初戦でオーストラリアに0-3の完敗を喫して追い詰められたカタールは、3月4日のバーレーンとの親善試合で初めてエメルソンを起用、3次予選2戦目のイラク戦にも出場させて決定的な勝利を得たのだ。
当然、イラクは「カタールは出場資格のない選手を出場させた」とFIFAに訴えた。
しかしFIFAは、エメルソンにはカタール代表になる資格がないことを認めながら、試合結果は変わらないという決定を下した。
FIFAには「出場資格のない選手を出場させた場合、相手チームに勝ち点3を与える」というルールがある。しかし当該国はそのための抗議を試合後24時間以内に行わなければならず、同時に調査費用をFIFAに支払わなければならない。ところがイラクサッカー協会が費用を送金したのは期限の11日後だった。したがって「抗議」自体が成立せず、試合結果は変わらないとしたのである。
あきらめきれないイラクはスポーツ仲裁裁判所(CAS=本部スイス)への仲裁申し立てを行ったが、9月29日、CASはFIFAの言い分を認め、「試合はそのまま成立」という結論を出した。
すでに4次予選がスタートし、カタールが2試合も消化してしまっているいま、3月の試合結果をひっくり返すことは大きな混乱を招く。しかし出場資格がないことが明白なエメルソンを強引に代表で使ったカタール協会に何のとがめもないのは、どう考えてもフェアではない。
今後同様のことが起こるのを防止するためにも、FIFAはカタールを何らかの形で罰する必要がある。
(2008年10月1日)
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