サッカーの話をしよう
No.718 TASAKI廃部 別の道はなかったのか
「プレナスなでしこリーグ」の強豪チームTASAKIペルーレの休部、リーグからの退会が発表された。
なでしこリーグでは数少ない企業チーム。北京オリンピックで活躍したDF池田浩美をはじめとした選手たちは田崎真珠の社員である。業績悪化でチームの今後が心配されていたが、女子サッカーを熱心に支えてきた前経営陣から9月末に引き継いだ新経営陣は10月10日、今季限りでの休部を発表、4日後、リーグは退会を認めた。
頭をよぎったのは、ちょうど10年前のある「事件」だった。Jリーグ所属の横浜の2クラブ、マリノスとフリューゲルスの「合併」劇である。Jリーグがスタートを切ってわずか6シーズン目。それぞれのクラブの主要出資元だった日産自動車と全日空はまるで「子会社」の整理のように事務的に話を決めた。
98年10月29日、両社から届けを受けたJリーグは、臨時理事会を開いてこれを認めた。
最初に話題になったのは事実上マリノスに吸収されて「消滅」するフリューゲルスの選手たちの反応だった。生活の危機に立たされた選手たちは必死にクラブの存続を訴えた。だがJリーグも両企業も冷淡だった。
意外な展開は、フリューゲルスのサポーターが団結し、立ち上がったことだった。サポーターたちは全国から署名を集め、「フリューゲルスは全日空だけのものではない。地域の人びとのものでもある。Jリーグでなくていいから存続させてほしい」と訴えた。
その真摯(しんし)な訴えは社会的な衝撃となった。バブル経済がはじけた90年代前半以降、多くの企業がスポーツから撤退し、たくさんの強豪チームが消えていった。誰にも止められなかった。
しかし最終的にフリューゲルスのサポーターたちは自ら資金を集めて「横浜FC」をつくり、将来に夢をつなげた。サッカー界はこの出来事から多くのことを学び、以後、Jリーグでは消滅したクラブはない。サポーターたちの行動力と、何よりもクラブを「自分たちの不可分な一部」と思う愛情だった。
女子のリーグでも、企業が支援できなくなったとき、地域社会で支えて「クラブチーム」として残ったところがいくつもある。今回のTASAKIの件では、そうした教訓も前例も生かされなかったのは残念だった。企業が企業論理だけで動くとき、スポーツ側にもいくらでもできることがあるはずなのに...。
(2008年10月22日)
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