サッカーの話をしよう
No.736 インドの大いなる野望
オーストラリアが苦戦している。
ワールドカップ予選ではすでに「出場権獲得決定的」と言われているオーストラリア。苦戦しているのは、並行して行われているアジアカップ予選だ。
3月5日にホームで行われた予選第2戦、クウェート戦を0-1で落とし、2戦して1分け1敗。勝ち点1でグループ最下位となった。ヨーロッパ組を使えず、国内にいる選手だけで戦っていることが原因のようだ。
さて、2011年にカタールで開催される次回のアジアカップに、開催国カタール、前大会の成績でシードされたイラク、サウジアラビア、韓国のほかにすでに出場を決めている国がひとつある。08年の「AFCチャレンジカップ」で優勝を飾ったインドだ。
1947年までイギリス統治下にあったインドは、アジアの「サッカー先進国」のひとつで、51年と62年にはアジア大会で金メダルを獲得、64年にはアジアカップで準優勝を飾っている。しかし70年ごろから中東の国ぐにの強化が進むなか、インドは急速にその地位を落としていく。近年ではクリケットにナンバーワンスポーツの座を明け渡し、2月現在のFIFAランキングは148位、アジアで24番目という低さだ。
そのインドが、84年以来27年ぶりのアジアカップ決勝大会進出のチャンスを生かそうと「大強化計画」を決めた。なんと代表選手25人を今後2年間合宿状態にして鍛えようというのである。総予算なんと4億ルピー(約7億6000万円)。この2年間、選手たちは所属クラブから離れ、インド代表としてのみ活動するという。
監督は、中国、ウズベキスタンで10年間以上にわたるアジアサッカーの経験をもつボブ・ホートン(イングランド)。06年に就任以来、着実にインドの力を上げ、ついにアジアカップ決勝大会出場という成果をつかんだ。ホートン監督への信頼の厚さこそ、「ゴール2011」と名づけられた大プロジェクトをインド協会が決断した最大の理由だった。
現在、人口が11億とも12億とも言われ、遠くない未来には中国を抜いて世界最多となり、今世紀半ばには20億を突破するのではないかと言われているインド。急成長する経済がサッカーへの投資を始めれば、「南アジアの眠れる巨人」が再び強豪の仲間入りをすることも夢ではない。アジアのサッカーがダイナミックに変わり始めていることが、この例だけでもよくわかる。
(2009年3月11日)
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