サッカーの話をしよう
No.737 オートマチックを止めろ
「オートマチックすぎる」
アルゼンチン代表監督メノッティがそう語ったのは1979年のことだった。
前年、見事な攻撃的サッカーでワールドカップ初優勝を飾ったアルゼンチンは、この年18歳の天才マラドーナをチームに加え、さらに攻撃力を増していた。しかし派手なパスワークで相手守備を手玉に取る割に、それがシュートや得点に結び付く回数が少なかった。
原因は、パスが面白いように回るため選手たちがそれに夢中になり、「相手ゴールを陥れる」という攻撃の目的を忘れてしまったことにあった。それをメノッティは「オートマチックすぎる」と表現したのだ。
埼玉スタジアムで浦和レッズの攻撃を見ていて、メノッティの言葉を思い出した。
過去数年、浦和は個人の打開力を頼りにサッカーを進めてきた。昨年の不成績は、その限界を示すものだった。その反省から、今季はフォルカー・フィンケ監督(ドイツ)を招き、集団で攻撃を切り開くパスサッカーへの転換を開始した。
能力の高い選手がそろったチームだから、約2カ月間のトレーニングで見違えるように変わった。何人もの選手がボールにからみ、面白いようにパスが回るようになった。ところが、それがなかなか得点どころかシュートにも結び付かない。
今季のホーム初戦、前半戦はそうした試合だった。CKから先制しながらすぐに追いつかれ、パスは回るもののシュートにつながらない。思い切って個人の勝負に出なければならない場面で、まだパスを回している。それが相手の守備網にひっかかってしまうのだ。
だが後半、いらいらは解消された。決め手はDFたちの大胆な攻撃参加だった。後半38分、センターバックの坪井が自陣中央からFWエジミウソンにパスを出すとそのまま左サイドのスペースに駆け上がり、エジミウソンからパスを受けて突破、そこから試合を決定づける3点目が生まれた。後半3分の2点目も、DF闘莉王が相手陣中央から出したパスが起点となった。
リズミカルなパスワークのなかに突然「DFの攻撃参加」という「破」の要素が加わったことで相手の守備が崩れたのが、この2得点だった。その要素を攻撃陣が自らつくりだせれば、すなわち「オートマチック」を正しいタイミングで切ることができれば、浦和のパスサッカーは、相手にとって本当に恐いものになる。
(2009年3月18日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。