サッカーの話をしよう
No.738 オリンピックと6+5
国際サッカー連盟(FIFA)によると、昨年8月の北京五輪では、男女合わせて全58試合で216万3627人もの観客を集めたという。これまでの最多記録の1・5倍にも当たる新記録だ。
「ダブルヘッダー」も1試合ずつカウントしているから、実際には百数十万というところだが、それでも有料入場者数としては全競技中群を抜くトップ。サッカーは五輪でも欠くことのできない人気競技であることを、今回も証明した。
ところが先週、FIFAの理事会は五輪の男子サッカーを21歳以下の大会にする案をまとめた。これまでは23歳以下で、そのうえに各チーム3人までのオーバーエージ(年齢制限なし)の出場を認めていた。それを2歳引き下げ、オーバーエージもなくすという。
北京大会出場を巡って、所属するヨーロッパのクラブから何人もの選手が待ったをかけられた。最終的にはFIFAが強権を発動する形で出場させたが、23歳以下でもクラブの主力として活躍する選手が急増している現状を見れば、次回はさらに難しい問題になりかねない。
FIFAのブラッター会長の最大の懸案は自ら提唱する「6+5ルール」。クラブの試合の先発に、最低6人はその国の選手を入れなければならないという規則だ。昨年のFIFA総会で可決されたが、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)は「欧州連合(EU)の基本法に抵触する」と、絶対反対の立場を取ってきた。
国籍制限をほぼ撤廃して世界からスターを集め、「わが世の春」を謳歌(おうか)するヨーロッパのサッカー。「6+5ルール」は、EUの法の問題だけでなく、ヨーロッパのクラブの利益を害するものでもある。
しかし最近、ブラッター会長は、力強い味方を得た。ドイツのある研究機関が、「6+5は、EUの基本法に必ずしも抵触しない」と発表したのだ。
これを受けて、ブラッター会長は一気にUEFAとの折衝を進めようという構えだ。その交渉の有力な材料として、今回の五輪の新年齢制限案が持ち出されたのではないか。
次回五輪は12年ロンドン。「サッカーの母国」での大会からサッカーを外すわけにはいかない。以前から逆に年齢制限の撤廃を求めてきた国際オリンピック委員会(IOC)も、ここでFIFAと正面対立するのは難しい。ブラッター会長の壮大な「駆け引き」。結果はどう出るか―。
(2009年3月25日)
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