サッカーの話をしよう

No.747 理不尽に屈しない強さ

 「日本が最強メンバーでウズベキスタンと戦ったのは、バーレーンを助けるためか」
 6月6日、タシケントのパフタコール・スタジアム。ワールドカップ出場を決めた日本代表の岡田武史監督に地元記者からこんな質問が飛んだ。
 ウズベキスタンはすでにグループで2位以内になる希望はなく、プレーオフ進出の3位を目指している。そのライバル、バーレーンを利するために日本は戦ったのかというのが質問の主旨だった。
 信じ難いほどの理不尽な質問に、岡田監督は「私たちはいつもその時点でのベストメンバーを組んでいる」と答えただけだった。
 この質問に代表される「理不尽」に満ちあふれた試合だった。ムフセン・バスマ主審を中心とするシリアの審判団は、ウズベキスタンを勝たせるためのレフェリングに徹した。あからさまな判定は、「アジア・サッカーの恥」と言ってよい。
 接触プレーはことごとく日本の反則とされた。中村俊、遠藤といった中心選手が狙い撃ちのようにイエローカードを出された。最後には長谷部が退場となり、大声で選手に指示を与えていた岡田監督も退席を命じられた。
 しかし日本の選手たちは驚くほど冷静だった。審判の意図を見抜き、注意深く、それでいて強い気持ちを崩さずにプレーを続けた。その自己抑制はこの夜の最大の驚きだった。理不尽な判定にも自分を見失わず、チームの目的だけを考えてプレーし続けたことが、出場権獲得となって結実した。派手な攻撃はできなかったが、「偉大」と呼んでいい勝利だったと、私は思う。
 ところで、記者会見後、私の友人の一人の記者が会見で理不尽な質問をした記者にからまれて閉口していた。「日本は次のカタール戦で勝てば十分だったのに、ここで全力を尽くした。すべてバーレーンを助けるためだったんだ」。ウズベキスタン人記者は執拗(しつよう)だった。
 「こんなのは相手にしなくていい」と私は友人に言った。しかし彼は毅然(きぜん)とした態度を崩さなかった。そして最後にこう反論した。
 「日本はバーレーンにもカタールにもアウェーで勝った。きょうも同じ態度を貫いて臨んだだけだ」
 ウズベキスタンの記者は口をつぐんだ。
 理不尽に屈せず、自制心を失わず、堂々と相手を論破した態度はこの日の日本代表に通じていた。きっと彼も、日本代表の戦いぶりから大きな勇気をもらったのに違いない。
 
(2009年6月10日)
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