サッカーの話をしよう
No.748 暴走止まらぬレアル
レアル・マドリード(スペイン)の「暴走」が止まらない。
6月9日にブラジル代表のMFカカをACミラン(イタリア)から92億円で獲得した話題も冷めないうちに、ポルトガル代表FWクリスティアーノロナルドをマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)から129億円という途方もない金額で引き抜いた。
「われわれには3億ユーロ(約414億円)の強化資金がある」と豪語するペレス会長は、さらにスウェーデン代表FWイブラヒモビッチをインテル・ミラノ(イタリア)から、フランス代表MFリベリーをバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)から獲得する交渉にはいっていると言われ、スペイン代表FWのビジャ(バレンシア=スペイン)、スペイン代表MFシャビアロンソ(リバプール=イングランド)の移籍も秒読み段階にあると言われる。
レアルはUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)優勝9回を誇る名門チーム。国際サッカー連盟により「20世紀最高のクラブ」にも選ばれている。ところがこの数年は低迷が続いている。スペイン・リーグでは一昨年、昨年と連覇しているのだが、UCL優勝はもう7年間も遠ざかっている。だがそれ以上の問題は、不俱戴天(ふぐたいてん)のライバルであるFCバルセロナが、今季、UCLを含む3冠を成し遂げる一方で、レアルは無冠に終わったことだ。
6月1日、3年ぶりに会長に復帰したペレスは、「スペクタクルなチームをつくる」と公約、時を置かずに行動に出たのだ。
だがサッカーはカードゲームではない。手元にいくら強いカードを持っていても、それだけでチャンピオンになれるわけではない。
今世紀初頭、ペレス会長率いるレアルは、ジダン(フランス)、フィーゴ(ポルトガル)、ロナウド(ブラジル)、そしてラウル(スペイン)ら世界的なスターを攻撃陣に並べて無敵の「銀河軍団」と言われた。それを壊したのは、さらに巨額を投じて世界的スターを獲得し、チームのバランスを崩したペレス会長自身だった。
今季ヨーロッパを席巻したバルセロナは、レギュラーの半数がクラブのユース育ちだった。レアルの「銀河軍団」が最高の力を発揮した時期にも、ユースから上がった選手が半数近くを占めていた。
近道などない。時間をかけてそのクラブのスタイルと哲学を受け継ぐ選手を育て上げなければ、真のチャンピオンは生まれない。
(2009年6月17日)
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