サッカーの話をしよう
No.755 GKは8キロ走る
「私が求めているのは『11番目』のフィールドプレーヤーだ」
イビチャ・オシムさんに、どんなGK(ゴールキーパー)が必要かと聞くと、こんな答えが返ってきた。
先週紹介した「国際GK会議」(6月26日、ミュンヘン)でも、GKの役割がわずか十数年間で大きく変わったことが強調された。
92年の「バックパスルール」で、GKは味方のパスに対しては手を使えなくなった。
「新ルールと、DFラインの押し上げがさらに増すなかで、GKは自分のゴールから30メートルも前までの地域をカバーしなければならなくなった」と語るのはドイツのアンドレアス・ケプケである。
かつてGKの守備範囲はゴールから16.5メートルのペナルティーエリアラインまでだった。その中なら手を使うことができるからだ。ケプケの言葉は、そこから大きく出て、「リベロ」のようにプレーしなければならないことを示している。
その結果、現代のGKはプレーの85%を足を使って行うようになったと、ヨルグ・シュティール(スイス)は説明する。そして1試合で走る距離も、7~8キロになったという。90分間で走る距離はフィールドプレーヤーで10~12キロと言われている。GKは、以前はせいぜい3~4キロだった。それが倍になったというのだ。
過去10年間、日本代表のゴールは川口能活と楢崎正剛の2人で守ってきた。ある調査によると、平均の走行距離は川口が5・4キロ、楢崎が5.2キロだという。川口は06年9月のイエメン戦(サヌア)で7.4キロも走った。圧倒的に攻め込んだ試合。川口は大きく上がったDFラインの背後を幅広くカバーしたのだ。楢崎も、ことし3月のバーレーン戦では6・3キロ走った。
現在世界で最も優れた「11人目のフィールドプレーヤーとしてのGK」は、マンチェスター・ユナイテッドで活躍するオランダ代表のエドウィン・ファンデルサールではないか。ペナルティーエリアの左で味方からバックパスを受けて大きく右に展開すると、彼はそのまま自然にゴール前を横切ってエリアの右に移動し、パスを受けた選手が困ったら再びバックパスを受けられる備えをする。
サッカーのなかで役割が最も劇的に変わりつつあるGK。そのプレーを研究し、新時代の指導方法を探ることは緊急の課題だ。「国際GK会議」は、来年7月31日にスイスのチューリヒで第3回目を開催するという。
(2009年8月5日)
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