サッカーの話をしよう

No.758 背番号誕生物語

 「クラブカラーの神聖さをけがすものであり、禁止とする」
 1928年8月末、イングランド・サッカー協会(FA)とイングランド・リーグ(FL)が、傘下の4クラブに通達を送った。禁止されたのは「背番号」だった。
 「観客がもっと選手の区別をしやすいようにしよう」
 アーセナルのチャップマン監督の呼び掛けに応え、シェフィールド・ウェンズデー対アーセナル、チェルシー対スウォンジーの2試合で、選手たちが背番号をつけてプレーした。ホームチームが1番から11番、ビジターが12番から22番だった。
 サッカーのみならず今日のスポーツに不可欠な背番号。しかし最初から使われていたわけではない。サッカーで記録に残る最初の背番号使用例が、1928年8月25日にその4クラブが出場したFLの試合だった。
 いちどは禁止された背番号。再び登場したのは5年後、33年のFAカップ決勝のことだった。ラジオ放送のコメンテーターを助けるためだった。やはり1から22の「通し番号」がつけられた。
 ようやくFAとFLが全試合で背番号をつけることを決めたのが1939年。しかし第二次世界大戦の勃発でそれどころではなくなり、背番号つきのリーグが始まったのは戦後の46年のことだった。
 このときには両チームがそれぞれ1番から11番をつけた。そしてGKが1、「フルバック」が2と3、「ハーフバック」が4から6、そして「フォワード」が7から11という今日に続く背番号のイメージができた。
 ちなみに、日本に背番号の習慣が生まれたのは1930年代の初めだった。ただ、最初は左ウイングが1番、以下FWが5番までつけ、ハーフバック、フルバックと番号が増えていってGKは11番をつけていたと、故・高橋英辰さん(日本代表や日立などで監督、後に日本サッカーリーグ総務主事も務める)から聞いたことがある。
 おもしろいことに、今日もサッカーのルールには背番号に関する規定はない。「つけなければならない」という決まりもない。背番号は、それぞれの大会規定によって定められているだけなのだ。
 今日では、背番号はポジションではなく、選手個人を示すものとなった。そして選手のイメージと背番号は不可分なものとなった。それぞれの背番号にはそれぞれの物語がある。だが背番号そのものにも、興味深い「誕生物語」がある。
 
(2009年8月26日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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