サッカーの話をしよう
No.759 ベスト4宣言は生き方の話
「ワールドカップでベスト4」などと言ったら、世界中が笑うに違いない。なにしろ、ホームで開催された02年大会を別にすれば、2大会、6試合で1分け5敗という悲惨な成績の日本なのだ。
日本にも笑う人がたくさんいる。だが、日本代表監督・岡田武史は、ことし1月、意を決してそう宣言した。
「岡田監督は目標はワールドカップ・ベスト4と語っていますが、可能でしょうか」
以来、日本代表と対戦したチームの監督会見では、必ずこうした質問が出た。通訳された質問を聞いて、外国の監督たちは一様に困惑した顔をした。そして適当なコメントでお茶を濁した。
「サッカーに不可能はないよ」云々。
「ワールドカップ・ベスト4」と言っても、日本のサッカーはその距離感さえつかめない。出場4回目。02年にはベスト16に進んだが、他の2大会では勝利さえない。常識的には「1次リーグ突破」が現実的な目標だ。それさえ世界から見れば「奇跡」だろう。ベスト4になるには、そこからさらに2試合勝たなければならない。
しかし私は岡田監督を笑う気にはなれない。いや、「それしかない」とさえ思う。
日本はアジアでは確固たる地位を築き、ワールドカップ出場自体はもはや「挑戦」ではなくなった。だが上位進出が見込めるわけでもない。大きな期待を受けた06年大会も1分け2敗だった。世界のトップクラスとの力量差、競技環境の差を考えると、1000メートルもの岩壁を見上げたときのような、途方に暮れた思いを抱かざるをえない。普通に準備して大会に臨んでも、失望を繰り返すだけだ。
だから「ベスト4宣言」なのだ。
出場権を得たことで満足せず、その上に行くんだという高い「志」を抱き、生活のすべてをワールドカップで勝つことに向けた努力に費やす―。巨大な壁を乗り越えるには、尋常ではない覚悟と努力を必要とする。
「ベスト4宣言」は「生き方」の話だ。可能かどうかを検証するものではない。問うべきは、それに向かって選手たちが毎日を生きているかどうかだ。
ワールドカップ開幕まで9カ月あまり。その覚悟が問われる絶好の機会が訪れた。今週土曜、アウェーでのオランダ戦だ。「ワールドカップ・ベスト4クラス」を相手に、日本代表はどんな戦いを見せてくれるだろうか。いまは笑われてもいい。本気で挑んでいる姿勢を示してほしい。
(2009年9月2日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。