サッカーの話をしよう
No.764 ワールドカップ予選はドラマ
危うく「ブエノスアイレスの悲劇」になるところだった。
後半3分に得た「虎の子」の1点を守ろうと必死のアルゼンチンだったが、ロスタイム突入のわずか15秒前、ペルーに同点ゴールを許してしまったのだ。引き分けならワールドカップ出場も風前のともしびになる。
だが叩きつけるような豪雨のなかでアルゼンチンは不屈だった。2分後に右CKを得る。はね返されて左に流れたが、アルゼンチンが拾って中央に入れる。これもペルーの壁に阻まれて右へ。そこにCKをけったMFインスアがはいってくる。
得意の左足にもちかえてシュート。両チームの大半の選手がはいって密集するペナルティーエリアのなかで、誰かに当たってわずかにコースが変わったボールは、左ポストの前にいたFWパレルモの足に当たり、ゴールに吸い込まれた。
劇的な勝ち越し点。ベンチから全員が飛び出し、優勝したような騒ぎとなる。マラドーナ監督まで、水が浮いたグラウンドに「ヘッドスライディング」をして歓喜を表現した。2回にもわたって...。
2010年南アフリカ大会を目指すワールドカップの地域予選はきょう14日に最初のクライマックスを迎える。この日で、アフリカ地域を除く世界の全地域で予選の全日程が終わり、11月のプレーオフを残すだけとなるのだ。アルゼンチンも、きょうのウルグアイ戦(アウェー)に出場権獲得を懸ける。
すでに18カ国の予選突破が決まっている。きょう新たに4カ国が決まり、残るはアフリカの3とプレーオフにかけられる6の座。これに開催国南アフリカが加わって32の出場国が出そろう。
予選のプレーぶりと決勝大会の成績が必ずしも結びつかないのは誰もが知っている。アルゼンチンは02年大会の南米予選で圧倒的な強さを見せ首位で突破したが、決勝大会では1次リーグで敗退した。一方南米予選を苦しみながら3位で通過したブラジルは、見事優勝を飾った。
先週土曜日に劇的な形でペルーを下して出場権獲得に大きく前進したアルゼンチンだが、実は危うく勝利をフイにするところだった。パレルモの勝ち越し点直後、ペルーはMFトーレスがキックオフから破れかぶれのロングシュートを放った。それがアルゼンチンGKの手をかすめ、バーを直撃したのだ。
予選突破も敗退も紙一重。ワールドカップ予選はドラマにあふれている。
(2009年10月14日)
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